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コロナ後の経済 米の長期金利上昇で激変の懸念

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金融政策決定会合を終えて、記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=東京都中央区の日本銀行本店で年3月19日 拡大
金融政策決定会合を終えて、記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=東京都中央区の日本銀行本店で年3月19日

景気回復遅れる日欧に大きな余波

 先進国を中心にワクチン接種が進められている。それに並行する形で注視されているのが、コロナ後に向けた経済の行方だ。財政や金融の両面で大きな政策変更が起これば、世界の資金の流れが大きく変わる。混乱を回避するための措置がとられるであろうものの、その先を織り込む形で動くのが金融市場だ。

   ◇   ◇

 3月の第2週に、日米欧の金融当局が当面の金融政策の運営について決定を行った。非常時対応の現在の超拡張的な金融政策の維持を各中央銀行は継続する構えを示しているものの、コロナ後に向けた準備もうかがえる。

 米ドルによる基軸通貨体制のもとで、世界の金融市場にとって最も重要な指標は米国の長期金利だ。米ドルは国際的な資金決済の過半を占めている。そのドル資金は、米国の金利水準次第で、米国の内外を行ったり来たりしている。

 米国の金融政策が拡張から緊縮に転じれば、債券や株価に影響するだけでなく、世界に拡散していたドル資金が米国に向かう。国際決済通貨の役割の一端を担っているユーロや円を持つ欧州や日本は、決済資金にただちに困ることはないかもしれない。

 しかし、ドル資金不足に陥れば、その度合いによっては、外国との資金決済に窮する国々が出てくる。世界経済の行方を占ううえで米国の金融当局の動向が最重視されるゆえんだ。

 その米国は、バイデン政権に代わったもののコロナ対策で打撃を受けた国民を支援するため新たな給付を行うなど拡張的な財政政策を継続中だ。金融政策も同様ではあるものの、中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)は3月19日に、米大手銀が米国債を持ちやすいようにする資本規制の一時的な緩和措置を予定通り3月末で終了すると発表した。

 感染の拡大を防ぐためには経済活動を抑制しなければならない。需要は当然、落ち込む。所得の減少を余儀なくされた企業や家計を支援しないと社会は行き詰まってしまう。企業や個人を政府が支えるプログラムに各国が取り組んでいるゆえんだ。

 世界で最多の感染者を記録している米国では、支援のための財政支出も桁違いに巨額に上っている。米政府は国債の発行により、そのための資金を調達している。世界で最も大量に発行され、売買の量も最大なのが米国債だ。金融商品の中で断トツの地位を築いており、米国債の圧倒的な存在感が、基軸通貨としての米ドルを支えている。

 とはいえ、新型コロナウイルスによるパンデミック対策に費やされる政府資金がどれほどになるのか。当初は見当がつかなかったため、米政府は、リーマン・ショックの反省から講じてきた大手銀行の資産規模に対する規制を緩和する臨時措置を導入した。

 銀行が金融商品を保有すればするほど、その代金として市中に資金が供給される。バブルの温床とならないようにするための措置だった。しかし、パンデミック対策のために発行される米国債の買い手が足りなくなると困る。大手銀行の保有資産に対する規制を米政府が緩和したのは、そのためだった。

 しかし、ワクチン接種が進み、感染者の拡大も抑制されつつあることが背景にあるのだろう。経済の回復を見込んでいるようで、償還期間10年の長期国債の利回りは上昇基調にある。特別な措置をとらなくても米国債市場は安定を維持できるとしてFRBは、規制緩和を解いたようだ。

 コロナ対策のための緊急措置からFRBは出口に向けて踏み出した格好だ。その一方で、ワクチン不足や変異種が広がっている欧州、そしてワクチン接種が始まったばかりの日本では、経済活動の本格的な再開はまだまだ見通せない状況だ。しかし、米国での長期金利上昇の余波は世界に及び、欧州や日本も影響を受けている。

 経済が好転していないのに金利が上昇するのは困るため、欧州中央銀行(ECB)は、3月の会合で資産購入のペースを速め、資金供給のスピードを上げることを決めた。日銀は「金融緩和の点検」についてその結果を公表。長期金利の変動幅を上下に0.25%程度に拡大するほか、マイナス金利を拡大できるようにするため新たな付利制度を創設することを明らかにした。

 目標金利の変動幅の拡大によって、金利水準の引き下げ余地が広がる。新たな付利制度は、マイナス金利の拡大で打撃を受ける銀行に対する補助金のようなもので、マイナス金利を深掘りした際に銀行が融資に慎重になるのを防ぐための措置だ。次の景気後退に備え、さらなる緩和の手段を確保しておこうというのが実際のところではないだろうか。

 日本経済はコロナ禍が終息した後も、回復力が弱く、目標としている2%の物価上昇率の達成は到底、実現できないと日銀自らが語っているような印象だ。日銀が保有を拡大してきた国債や上場投資信託(ETF)についても、市場への影響を考えると売却に動きにくい。

 国債の場合は満期まで保有して償還を待てば、徐々にだとしても保有額を減らしていくことが可能なのかもしれない。しかし、償還期限のない株式の場合、国債のようにはいかない。日本経済は、緩和という沼にはまって抜けられなくなっている。それをもたらしたのは日銀でもあるわけだが、沼を深掘りすれば、ますます抜けられなくなってしまうというのが道理だろう。

 そんな状況の中で、米国が景気回復と物価上昇を見通し、量的緩和を縮小・停止して利上げを開始し、金融の正常化に進むとしたら、金融を取り巻く環境が激変することになる。

 すでに新興諸国は身構えている。ブラジルやトルコ、ロシアなどの諸国は、通貨安を防ごうと利上げに踏み切っている。米国の金利が上がっていけば、新興諸国からドル資金が流出していく。通貨防衛に失敗すればインフレと不況が自国経済を覆うことになるからだ。

 日米欧の中央銀行の足並みがそろわなくなる状況下で、低温経済が常態化し、そこから抜け出せなくなってしまっている日本にも、米国の金利上昇の余波は及んでくるだろう。日銀が行っている長期金利の制御は今後も可能なのか。投資環境の変化を見通した市場の動きと、それが世界と日本の経済にどう作用することになるのか。コロナ禍を乗り越えたとしても、経済は新たな問題を抱えることになる。

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