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東京電力福島第1原発の事故前、政府は自然災害が原子力災害を引き起こす可能性について、ほぼゼロと見ていた。今は複合災害も想定されるようになったが、住民は「避難の時に通る道路が寸断されるのではないか」と懸念している。【奥山智己】
「ここで起きたら覚悟」
三陸のリアス式海岸が続く宮城県石巻市の牡鹿(おしか)半島に車で行くには市中心部から一本道の県道に入る。半島を一周するように海岸の斜面に沿った道を進むと、市に隣接する女川町との境に建つ東北電力女川原発の前に出る。半島のほとんどの集落は、その一本道から分かれた道沿いにある。
「福島みたいに地震と原発事故がここで起きたら覚悟しておかないと」。目の前に海が広がる桃浦(もものうら)地区で暮らす漁師の甲谷(こうや)強さん(92)は、不安を隠さなかった。住民の多くは、次に来るかもしれない複合災害を気にかけているという。
東日本大震災の時、甲谷さんの自宅は津波につかったものの、高台に逃げて無事だった。その後、近くの親戚宅に避難し数日間を過ごした。市によると、半島では道路が津波のがれきや土砂災害で寸断され、全13集落が孤立した。
女川原発で複合災害が起きた場合、逃げられるのか。道路がどこかで寸断されれば市の中心部には出られず、反対方向に行けば原発に向かうことになる。
以前、集落を回って原発について説明していた東北電力の社員から、安全対策などをまとめたパンフレットを手渡された。だが、甲谷さんら住民の疑問への答えは記されていなかった。社員に質問しても「事故を起こさないようにする」と答えるだけ。甲谷さんは穏やかな海を見てつぶやいた。「津波だけなら高い所に逃げたらいいが、原発事故も起きたらそうはいかない。そこだけが心配だ」
県は2020年8月、市内で原発に関する住民説明会を開いた。出席した男性(70)によると、地震や津波で県道が寸断された場合にどう逃げればいいか、住民が質問した。しかし、説明会に参加した内閣府の担当者は「ソフト、ハードを駆使して対応する」と述べただけで、明確な返答はなかったという。
このような所は女川原発の周辺だけではない。
東京大と毎日新聞のアンケートによると、石巻市も含めて…
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