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田中優子の江戸から見ると

法政大総長・田中優子さんのコラム。江戸から見る「東京」を、ものや人、風景から語ります。

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最後の文人

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 「最後の文人・石川淳の世界」(集英社)が直に刊行される。私を含め、石川淳をさまざまな角度から読んできた5人の共著だ。

 石川淳とは何者か。私にとっては、江戸文化への道を開いてくれた作家である。1899年つまり19世紀に生まれたフランス文学者、翻訳者であり、芥川賞作家だ。祖父は昌平黌(こう)の儒学者であったといい、それゆえ石川淳は漢文を読みこなし、古書と江戸文学に詳しく、執筆範囲は東西の文学にわたった。まさに「最後の文人」である。私の江戸文化論は石川淳を拠点として展開してきた。

 石川淳はその小説の中で、赤裸々な日常生活を書く。しかし人間は生活しながら頭の中には別の世界が存在するものだ。例えば主人公の「わたし」がものを書き続けているのであれば、その書いている世界も小説に出現する。主人公が書いている作品と、主人公が生きている現実とが交差する。すると、実在として見えている人物が物語の登場人物に重なる。目の前の人間が、何百年も前の他の人間の映しであるという「見立て」「やつし」は…

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