特集

東日本大震災

2011年3月11日に発生した東日本大震災。復興の様子や課題、人々の移ろいを取り上げます。

特集一覧

処理水海洋放出 岩手の漁業関係者、コロナで収入減「追い打ち」

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷
宮古市田老のワカメ漁は収穫が終盤に入った。関係者は風評被害を懸念する=岩手県宮古市田老で、2021年4月10日午前7時1分、中尾卓英撮影 拡大
宮古市田老のワカメ漁は収穫が終盤に入った。関係者は風評被害を懸念する=岩手県宮古市田老で、2021年4月10日午前7時1分、中尾卓英撮影

 政府が13日に福島第1原発の汚染処理水を海洋放出する方針を決めたことを受け、岩手県内の漁業関係者からは風評被害への懸念や、十分な理解を得ないまま決定した政府の姿勢に疑問を呈する声が上がった。県内の水産業は漁獲量の減少や、新型コロナウイルスの影響による収入減など厳しい状況に直面する。漁業者らは「海洋放出が追い打ちをかける」と心配する。【中尾卓英、日向米華】

 「ふざけるなと言いたい」。海洋放出の決定に語気を強めたのは、原発事故後の風評被害に苦しんだ宮古市の田老町漁協の指導増殖課長、畠山昌彦さん(53)だ。今では「真崎わかめ」「真崎とろろ昆布」など海藻類がネット販売でも売れ筋だが、一時は大阪市場向けのボイルコンブの出荷がゼロになったこともある。「一度でも中国産などに取って代わられると取り戻すのにどれだけ時間がかかるか」と話し、「消費者に安全安心をアピールしていくしかない」と肩を落とした。

 5年前に田老に帰郷し、ワカメやコンブ漁を始めた松本隼輔さん(25)も「絶対にやめてほしい」と反対する。ウニやアワビ漁にも取り組み始めた直後の決定で「新型コロナの影響で売り上げが落ちているのに、これ以上は痛めつけないでほしい。もうからなければ漁業を継ぐ若者はいなくなる」と切実だ。

 東日本大震災や2016年の台風10号からの復興途上にある岩泉町の小本浜漁協の三田地和彦組合長(73)も「海洋放出は容認できない。県漁連を通じて反対の声を上げなければ」と力を込める。サケやアワビ、ワカメなど主力の不振に加え、今回の決定でこれから本格化するサクラマスやウニへの風評被害を心配する。

 県はこれまで県産品の安全性をアピールしてきたが、風評被害を避けるのは難しい。県農林水産部の佐藤隆浩部長は「県内のすべての魚種で放射性物質の検出はゼロだった。啓発をし尽くしても『東北産』とひとくくりにされてしまうのではやり切れない」と話す。

 一方、大船渡市でイカなどの加工を手掛ける「サンコー食品」の小浜健社長(48)は、「現実的にタンクにたまった処理水のことを考えると仕方がない。難しい判断だったと思う」と一定の理解を示した。ただ、中国やベトナムなどに輸出もしているため、「安心安全というエビデンス(科学的根拠)を準備していかなければいけない」と政府に注文をつけた。

県漁連会長「水産業ライン全てに風評被害」

 県漁連の大井誠治会長(86)は「国民は処理水に対して敏感になっている。生産者だけではなく仲卸や冷凍業者など、水産業のライン全てに風評被害が出てしまう。国はどう責任を持つつもりなのか」と憤った。

 新型コロナの影響で飲食店が営業を自粛したり、消費者が外食を控えたりして魚介類や加工食品の出荷量は減ったという。大井会長は「水産業や関連業界はお手上げ状態。さらに追い打ちをかけることになる」と懸念する。

 政府の姿勢を時期尚早だと批判してきた達増拓也知事は「安全性の確保や漁業をはじめとした産業への影響と対策などをさらに検討し、慎重な議論を進める必要がある」とコメントした。

【東日本大震災】

時系列で見る

次に読みたい

あわせて読みたい

注目の特集