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東京へ ともに歩む

毎日新聞

女子100メートルバタフライ決勝を制し、2位の長谷川涼香にたたえられ涙を流す池江璃花子(左)=東京アクアティクスセンターで2021年4月4日、梅村直承撮影

Field of View

プールに浮かんだコントラスト 一発勝負の競泳代表選考

 プールに浮かんだ笑顔と落胆のコントラストは、はっきりとしていた。10日に閉幕した競泳の日本選手権。新型コロナウイルスの影響で1年延期となった東京オリンピックの代表選考を兼ねた大会は、まさに一発勝負だった。ある者にとっては輝かしく、ある者にとっては残酷にさえ映った。

 大会が1年延期にならなければ、白血病で長期療養していた池江璃花子(ルネサンス)がリレーメンバーで東京五輪代表に入ることはなかっただろう。昨年はもちろん、今年の出場ですら本人は「考えていなかった」。退院後から指導する西崎勇コーチは「私と池江選手の間で東京五輪を目指そうという話をしたことは一度もない」と明かす。

女子100メートルバタフライ決勝を制し、目に涙を浮かべ拳を握る池江璃花子=東京アクアティクスセンターで2021年4月4日、梅村直承撮影

 1年前、池江は2024年パリ五輪出場を目指してプールにようやく入り始めた。東京五輪はおろか、周囲と同じメニューをこなすことすら難しかった。それが周囲や本人の想像を超える回復で、今大会は女子自由形とバタフライで4冠。「努力は必ず報われる」と涙ながらに語ったように、日々の積み重ねが結実した。

 不振に陥っていた16年リオデジャネイロ五輪金メダリストの萩野公介(ブリヂストン)も延期により好転した一人だ。昨春、萩野は取材に「もし五輪が今年(20年)来ていたらと考えると、僕自身はちょっと厳しかった」と正直に答えた。1年を「猶予」ととらえ、心にゆとりが生まれた萩野は、昨年12月の日本選手権男子個人メドレーで2冠を果たし復活を告げた。今大会では200メートル個人メドレーと800メートルリレーで五輪の代表権を獲得し、3大会連続代表入りした。男子で萩野以来となる高校生五輪代表となった17歳の柳本幸之介(東京・日大豊山高)も「1年前だったら絶対に五輪に出られていない」と、成長に延期が追い風となった。

 一方、「1年」という月日が重くのしかかったスイマーもいる。3大会連続出場を目指した女子平泳ぎの鈴木聡美(ミキハウス)は、コロナ下で約1カ月プール練習の中断を余儀なくされ、泳ぎの再構築を迫られた。プール練習再開直後には、感覚を失い故障にも見舞われた。

女子200メートル平泳ぎ決勝、7位に終わり厳しい表情の鈴木聡美=東京アクアティクスセンターで2021年4月8日、宮間俊樹撮影

 本来の泳ぎが戻ったのは今年3月ごろ。今大会は100メートル、200メートルともに予選をトップ通過するも代表を逃し「この1年間、本当に悩んだ。やらないといけないことも見失っていた時期もあった」と漏らした。

 男子200メートル平泳ぎでは、前日本記録保持者の渡辺一平(トヨタ自動車)が、この1年間で一気に記録を伸ばした佐藤翔馬(東京SC)と武良竜也(ミキハウス)の前に敗れ去った。

 見えないウイルスがなければ、どんな代表メンバーになっていたのだろう。3カ月後の本番会場となる東京アクアティクスセンターで繰り広げられた今大会。熱戦の後、穏やかになったプールのみなもを見つめながら、ふと頭をよぎった。

 五輪代表33人のうち初出場は前回より1人多い22人。日本代表の平井伯昌監督は「日本代表自体が初めての選手も多い。全体的にフレッシュ」と評する。新進気鋭のスイマーたちの本番での活躍を期待したい。【倉沢仁志】

倉沢仁志

毎日新聞東京本社運動部。1987年、長野県生まれ。2010年入社。高知、和歌山両支局を経て17年から東京運動部。レスリング、重量挙げなどを担当。高校時代には重量挙げで全国高校総体に出場したが、階級で10キロ以上軽い三宅宏実選手の記録には遠く及ばない。