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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「ヨシダ」「ジョーンズ」。スパイ小説のようなコードネームを使い…

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 「ヨシダ」「ジョーンズ」。スパイ小説のようなコードネームを使い、沖縄返還をめぐる秘密交渉が行われたのは1969年のことだ。「ヨシダ」は佐藤栄作首相の密使を務めた国際政治学者の若泉敬(わかいずみ・けい)氏。「ジョーンズ」はニクソン大統領の補佐官、キッシンジャー氏を指した▲同氏は密使派遣を「日本的流儀」と受け止めていた。回想録によると、日本では「意思決定に当たって指導者が自ら表に立たずに結論を出させる」「政策が単なる一個人の考えではなく、社会の総意を反映するように導いていく」と分析している▲欧米では「決定を下すのは早いが実行するのに時間がかかる」のに対し、日本では「決定自体には時間がかかっても、実行はすばやく一意専心に進められる」との評価もある▲キッシンジャー氏が見て取ったのは調整型のリーダー像だろう。しかし、半世紀がたち、日本のリーダー像も変わった。菅義偉(すが・よしひで)首相は「決断し、責任を取る政治」を強調する。一方で、首相が決断しても「一意専心」での実行は容易でない▲菅首相が初の訪米でバイデン米大統領と会談する。焦点は中国問題だ。共同文書に台湾海峡情勢が盛り込まれれば、沖縄返還で合意した69年11月の佐藤・ニクソン会談以来という▲日米同盟の重要性は言うまでもない。一方で、中国との経済関係や「一衣帯水」の距離を考えれば、「米中新冷戦」の最前線に立たされるのも困る。ここは決断先行でなく、長期的利益を考えた首脳外交に期待したい。

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