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東京へ ともに歩む

毎日新聞

日本選手権男子50キロ競歩で優勝し、東京五輪出場を決めて感極まる丸尾知司=石川県輪島市で2021年4月11日、久保玲撮影

Passion

「枯れても腐るな」競歩・丸尾知司、遅咲き29歳を支えた言葉

 東京オリンピックでメダルが期待される男子競歩。最長50キロは4時間近く歩き続け「最も過酷な陸上競技」といわれる。最後の代表枠を勝ち取った丸尾知司(さとし、29歳)=愛知製鋼。初の五輪に挑む遅咲きウオーカーの原点は、けがに苦しんだ高校時代にある。

    東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権男子50キロ競歩でコースを周回する丸尾知司=石川県輪島市で2021年4月11日、久保玲撮影

     「負けると思った日はたくさんあった。勝てないんじゃないかと思う日もたくさんあった」。11日に石川県輪島市であった東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権男子50キロ。トップでフィニッシュした丸尾は、何度も目元に手をやった。

     これまで好記録を出しながら勝てなかった。前回の代表選考会だった2019年秋の全日本50キロ競歩高畠大会(山形)で日本歴代2位の3時間37分39秒を出したものの、日本新記録で優勝した川野将虎(まさとら、22歳)=旭化成、当時・東洋大=に敗れて2位。ラストチャンスとなった日本選手権で3時間38分42秒の大会新記録で初優勝し、初の五輪代表に決まった。苦しかった日々を思い、うれし涙があふれた。

     京都市出身。市民ランナーだった父の影響で幼少期から走ることが大好きだった。中学では3000メートルで全国大会に出場。箱根駅伝に憧れ、地元の強豪・洛南高に進んだが、入学直後からけがに悩まされ、満足に走れない日々が続いた。高校2年の春ごろ、「脚の負担を減らせる」と当時の監督の勧めで競歩を始めた。走りへの未練は消えず、チームメートが走る姿を見ては「僕はここに何しに来たんだ」と苦悩した。

     好きで始めた競歩ではない。その考えが変わったのは、苦しみ続けた故障がきっかけだった。高校2年の12月、痛みが続いていた左膝にメスを入れた。膝の皿の欠けた箇所を摘出する手術で、完治まで約半年。車椅子や松葉づえなしでは歩くことさえままならない。失意は深まった。

     手術後、陸上部に顔を出したが、グラウンド脇から練習を眺めるしかなかった。そんな丸尾に声をかけたのが、当時短距離部門のコーチだった柴田博之・現監督(57)。1988年ソウル五輪の走り幅跳び代表で、引退間際は両アキレスけんのけがに苦しんだ。「全力を出せないことほど、競技者にとってつらいことはない」と身をもって知っていた柴田監督は、丸尾にこう話しかけた。

     「マルちゃん。木は枯れてもまた生えてくるけど、腐ったらもう生えてこないんだよ。『枯れても腐るな』だよ」

    OBの丸尾知司の高校時代の話を選手たちにする洛南高陸上部の柴田博之監督(左端)。丸尾の歩みは後輩たちにも励みになっている=京都市南区の洛南高で2021年4月14日午後5時34分、石川裕士撮影

     洛南高のグラウンド脇に植えられたツツジ。春には白やピンクの奇麗な花を咲かすが、冬場は葉が落ちて枝だけになる。柴田監督は、枯れたように映るツツジが翌春再び花を咲かすのを何度も見ていた。自然のサイクルと人生を重ね、「根さえ腐らなければ何度でもやり直せる」と伝えたかった。

     当時を振り返り、丸尾は「柴田先生の言葉がすごく力になった」と話す。歩けなくなったことで、スポーツができるありがたさも実感。本格的に競歩選手として高みを目指すことを決めて練習に打ち込み、高校3年秋の国体少年男子5000メートル競歩で優勝した。

     その後も一本道の競技人生ではなかったが、柴田監督から贈られた言葉は支えになった。びわこ成蹊スポーツ大卒業後に就職した和歌山県教委では、仕事と競技を両立させた。16年、東京五輪を目指して練習環境が整った愛知製鋼に加入し、50キロに挑戦。17年ロンドン世界選手権代表、18年ジャカルタ・アジア大会4位とコツコツと力を伸ばし、ついに五輪代表までたどりついた。

     男子50キロは15年以降の世界選手権、五輪でメダルを獲得し続けている日本勢の得意種目だ。丸尾は「(代表を)勝ち取ったからには、メダルをターゲットにしたい」と意気込む。競歩を始めて10年余り。地道に根を伸ばし続けた実直な29歳は、真夏の札幌で大輪の花を咲かせるつもりだ。【石川裕士】

    石川裕士

    1986年、千葉県生まれ。2012年入社。広島支局、和歌山支局を経て、18年4月から大阪本社運動部でアマチュア野球などを担当。小中高では野球や卓球、バドミントンをプレーしていた。健康維持のため、阪神タイガースの近本光司選手がインスタグラムでレシピを紹介していたスムージーを毎朝飲んでいる。好きな言葉は謙虚、優しさ、絆。