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米軍アフガン完全撤収 安定回復への責任は重い

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 バイデン米大統領が、アフガニスタンに駐留する米軍を今年9月11日までに完全に撤収させる方針を表明した。

 米同時多発テロに端を発したアフガン戦争は、この秋で20年になる。「米国史上最長の戦争」だ。しかし、この間、紛争は泥沼化し、今なお出口は見えない。

 年間で数兆円もの駐留費は米政府にとって大きな負担だ。米兵の死傷者も多数に上っており、国民のえん戦ムードは高まっている。

 対テロの主戦場はシリアやイエメンに移り、中国やロシアの脅威は増大している。軍事的な資源をそこに振り向ける狙いもあろう。

 20年の節目を名目に紛争から手を引き、「終戦」を演出するという政治的な思惑も透けて見える。

 懸念するのは、バイデン政権が、これまで条件としてきた現地の治安改善にこだわらず、撤収を進めることだ。

 現地では、アフガン政府と反政府勢力タリバンとの戦闘が続く。力の空白が生まれ、混迷が深まるのは避けられないだろう。

 撤収をにらんでタリバンが攻勢を強めるおそれがある。攻撃を受ければ「激しく反撃する」と米政府は言うが、それも今秋までだ。

 タリバンが支配地域を広げ、内戦に陥る懸念もある。国際テロ組織アルカイダとのつながりは今もあり、アフガンが再び「テロの温床」になりかねない。

 米国には、最悪の事態を回避する責任がある。

 まず、アフガン政府とタリバンとの和平合意を実現する必要がある。タリバンは近く開かれる和平協議への参加を拒んでいるが、米政府は説得を続けるべきだ。

 人道支援の継続も欠かせない。民間人の死者は年間3000人を超える。非政府組織「ペシャワール会」の中村哲医師が活動中に殺害された事件は記憶に新しい。

 米政府はアフガンの民主化や、人権の尊重、女性への権利付与を受け入れるよう求めてきたが、タリバンはこれに応じていない。

 アフガン国民を置き去りにし、混迷を黙認するような印象を国際社会に与えるなら、米国の信頼低下は免れない。

 外交努力を尽くし、安定の回復に道筋をつける。これがバイデン政権の最低限の責務だ。

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