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東京五輪を前に次々と明らかになった日本の深刻なジェンダーギャップ。意識のアップデートのために何が必要?

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「わきまえる女性ばかりの男女平等」に注意 社会学者の警鐘

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首相官邸に入る自民党の稲田朋美前幹事長代行=東京都千代田区で2021年2月18日午後2時58分、竹内幹撮影
首相官邸に入る自民党の稲田朋美前幹事長代行=東京都千代田区で2021年2月18日午後2時58分、竹内幹撮影

 政府の「女性活躍」をけん引してきた人たちの危うい言動に注目が集まっている。男女共同参画担当相の丸川珠代氏が選択的夫婦別姓制度に反対したことは記憶に新しい。一方、稲田朋美・元防衛相は選択的夫婦別姓に反対の立場を最近になって変え、自民党内でも女性の幹部登用などを求めている。両氏は立場が異なるようにも思えるが、「二人ともリーン・イン・フェミニズム(LEAN IN=「寄りかかる」という意味の英語動詞から「体制の一員になる」フェミニズムという意味で使われる)を体現しており、言動に注意が必要です」と説くのが社会学者の菊地夏野さんだ。フェミニズムの新たな潮流として注目される「99%のためのフェミニズム宣言」(人文書院)の解説者でもある菊地さんに、「女性活躍」の中でも警戒すべき動きを読み解いてもらった。【待鳥航志/コンテンツ編成センター】

ジェンダー不平等を温存する政策

 ――リーン・イン・フェミニズムとは何でしょうか。

 ◆リーン・イン・フェミニズムは米フェイスブックCOO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグ氏が使い始めた言葉で、女性が企業や組織の中で重役、管理職になって発信力を持っていくことで、女性の地位を向上させようという考え方です。日本の政治家のリーン・インの筆頭はなんといっても小池百合子東京都知事ですが、選択的夫婦別姓制度に反対している丸川珠代・男女共同参画担当相や、東京オリンピック・パラリンピック組織委の会長になった橋本聖子さんも、リーン・インを体現していますよね。

 橋本さんは過去のセクハラ行為が問題視されましたが、マイノリティーであるがゆえに過剰に男社会に適応しなければならなかったように思います。

 日本的なリーン・インの政治家は、自民党といったマッチョな組織の男性文化に女性が同一化するなかで生まれてきました。そして日本の女性政策そのものも、リーン・インの考え方や自民党内の新自由主義的な思想のもとで進められてきました。

 ――女性政策がリーン・インの考え方に基づくとは、どういうことでしょうか。

 ◆日本のリーン・イン的な女性政策のはじまりは1985年に制定された男女雇用機会均等法です。「女性は30歳で会社を辞めなければいけない」といった明確に女性差別的なそれまでの雇用システムが、女性運動の反対や国際的な批判を浴びて続けられなくなった。代わりに均等法の下ではコース別雇用制度ができ、社員が総合職と一般職に分けられました。「女性を働かせたい」という企業の声も出始めますが、あくまで男性よりは悪い条件です。コース別雇用は実質的に男性が総合職、女性が一般職にされ、女性差別は間接的に続いてきました。

 99年に男女共同参画社会基本法ができ、2000年代以降に総合職の女性採用の割合が少しずつ上がります。人手不足や少子化への対応として小泉純一郎政権下で「再チャレンジ支援プラン」が作られ、安倍晋三前政権がさらに展開させて2015年に「女性活躍推進法」ができます。一部の「女性を働かせたい」という企業と共に女性活躍政策が確立されてきました。

 しかし自民党の新自由主義的な政策は、基本的に教育や医療福祉分野の公的支援を削る方向へ働きます。

 女性の社会参画が数字上で増えたとしても、コース別雇用の不均衡や正規雇用・非正規雇用の格差は是正されていませんし、家事や子育ての負担も女性ばかりが負わされたままです。つまり自民党の女性政策が目指すのは見せかけの能力主義ではあれど男女平等とはいえません。「家事は女性がやるもの」といった既存の不平等なジェンダー秩序を利用して、あくまで女性の労働力をより効率的に使おうとするものです。このように日本の新自由主義的な女性政策は、構造的なジェンダー不平等を見えにくくして温存してきました。

 そういう政策を続けてきた政党の中で女性が活躍しようとすると、「わきまえ」ながらでなければ上に行けないわけですよね。男性文化にすごく適合して上りつめていったのが、橋本さんや丸川さんなのだと思います。

ジェンダー意識の高まり利用されかねない

 ――森喜朗氏の女性に対する差別発言への批判が高まる中、自民党内では稲田朋美元防衛相らが共同代表を務める議員連盟「女性議員飛躍の会」が緊急提言を提出し、党四役への女性の登用などを求める動きも出ています。

 ◆稲田さんたちの動きには注意が必要だと思います。稲田さんのこれまでのルッキズム(外見至上主義)的な発言や保守的な政治スタンスを見ても、本当に女性差別やジェンダー不平等の解消を目指しているようには思えません。むしろ稲田さんもリーン・インの立場でしょう。最近になってシングルマザー支援の拡充に取り組んだり、夫婦別姓反対のスタンスを変えたりしていますが、これはジェンダーに関心のある層を自民党支持に取り込もうとしているように思います。フランスの極右政党「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン党首は女性解放やフェミニズムに近い主張を訴えていますが、他方では移民排斥を掲げており、フェミニズムを利用して排外主義的な政策への支持を広げようとする「フェモナショナリズム」の筆頭です。稲田さんもルペンをかなり意識しているのではないでしょうか。

 責任あるポジシ…

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