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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 こけおどしや空威張(からいば)りを英語で「ペーパータイガー」という。もともと毛沢東(もうたくとう)が米国の原爆を張り子の虎とあざけったのに由来する。加えて日本語で「張り子の虎」といえば、誰にもうなずく無定見な人も指す▲何ともイメージの悪い張り子の虎だが、昔は疫病退散の霊力を期待されたようだ。江戸時代の文政年間、コレラが大坂ではやったおり、道(ど)修(しょう)町(まち)の薬種商たちは虎の頭骨を配合した丸薬とお守りの張り子を町民に無料で配布したという▲「虎頭殺鬼雄黄円(ことうさっきうおうえん)」という薬名はこけおどしだったが、町民救済をめざした心意気はよしとしたい。医薬の祖神をまつる同地の少(すくな)彦名(ひこな)神社ではササにつけた張り子の虎が今も病よけとされている。大阪の虎はタイガースだけでない▲新型コロナウイルスの変異株の感染拡大が続く大阪の吉村洋文(よしむら・ひろふみ)府知事は、3度目の緊急事態宣言の発令を国に要請する。2週間のまん延防止措置にもかかわらず重症者数が実質的に確保病床数を超え、医療体制が危機に瀕(ひん)したからだ▲不思議なのは2度の緊急事態宣言を経験しながら、こうも容易に破られる医療体制の天井のもろさだ。相変わらず検査体制への不満の声も絶えない。この1年、何度問題が指摘されても打開できなかった検査・医療体制の隘路(あいろ)である▲大阪のきょうは東京など他の都市のあすとなりうる。検査、医療、ワクチン接種は、行政が対処すべきコロナ対策の3本柱である。くれぐれもウイルスに「ペーパータイガー」とあざ笑われぬよう願いたい。

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