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和解のために 2021

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国家の利益、国家の都合で動員される女性たち

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インタビューに答える朴裕河韓国世宗大教授=東京都新宿区で2020年3月6日午後3時6分、宮本明登撮影
インタビューに答える朴裕河韓国世宗大教授=東京都新宿区で2020年3月6日午後3時6分、宮本明登撮影

 元慰安婦ら20人が日本政府に賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は21日、原告の請求を却下した。同地裁は1月に、国家には他国の裁判権が及ばないとする国際法上の「主権免除」の原則を認めず、日本に賠償を命じる判決を出しており、司法判断が分かれた。1月の判決文と、原告らが慰安婦であることを韓国政府に申告した際の話や証言集のために残した話との違いを指摘する韓国・世宗大の朴裕河(パク・ユハ)教授は、判決内容を引き続き検討したうえで、2015年の日韓合意を補完する作業が必要だと訴える。(毎月、上・下2回に分けて掲載)

 判決に記された元慰安婦の被害事実が、元慰安婦による韓国政府への申告時や、各人の証言が口述集に収められたおよそ20年前の内容と異なるようなことが起こった理由を、「歴史の司法化」――つまり法廷で勝ち負けを決めようとした歴史との向き合い方にあると、前回書いた。実際にこれまでの過程を眺めると、慰安婦をめぐって起こったすべてのことが司法の場で「法的」に問題があると認められるように、多くの議論が組み立てられたことを確認することができる。

 たとえば、日本では21歳以上の「娼妓(しょうぎ)」でないと海外へ渡航できなかったという規範があるので、21歳未満の未成年を働かせたのは不法だという議論がある(日本が女性と児童の人身売買条約を批准した結果として)。そして、朝鮮半島は植民地ゆえに(植民地をターゲットにして慰安婦を募集したという認識が一部研究者の根っこにある)そうした法律が適用されず、未成年者をたくさん集めることができたとみなすのである。しかし、本土に適用された法律を植民地に適用しなかったのは、日本のみならず植民地を持つ他の国家でもやっていたことだ。さらに言えば、そうした論理を使うと、朝鮮だと未成年者募集がかえって不法にならない。

 そこで持ち出されたのが、元慰安婦たちが「日本領として認められる日本船舶」に乗って移動したので、「日本帝国内の条約の適用」が可能(戸塚悦朗「“慰安婦”ではなく“性奴隷”である」ソナム、2001年)というような主張だった。こうした論理は、朝鮮では未成年の少女が集められ(だから被害者で)、日本では成年の玄人が集められた(だから被害者ではない)というような理解を、学問の世界でさえ長い間存続させた。

 前回書いた、判決文に整理されている六つの法律(ハーグ陸戦条約、白人奴隷売買の抑制のための国際条約、女性と児童の人身売買条約など)の適用にも、こうした矛盾が多々見受けられる。こうしたことが起こったのはやはり“法的”に問題があることを証明するためだったというほかない。もっとも、裁判過程が被害者たちに「生きがい」を与え、「ほこり」(花房俊雄・花房恵美子「関釜裁判がめざしたもの――韓国のおばあさんたちに寄り添って」白澤社発行、現代書館発売、2021年)を与えたことは大いに評価すべきだ。しかし、結局、裁判という方法は被害者たちが望む結果をもたらさなかったし、1月のソウル中央地裁の判決は、日本政府が拒否し続ける限り、形だけの勝利というほかない。であれば、歴史をめぐる判断を勝敗で決めようとしたこと自体が今は問われるべきだろう。

 日本政…

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