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浜崎洋介、古川勝久、上田岳弘、長島有里枝、小田島恒志、マヒトゥ・ザ・ピーポーの各氏が交代でつむぐコラム。

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他者との距離=マヒトゥ・ザ・ピーポー(ミュージシャン)

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 信号待ち、ふと見渡せば東京・渋谷のスクランブル交差点の角に立つ人々の口元は皆、マスクで覆われている。シャツや下着と同じように常習化を余儀なくされたマスクはもはや、顔の一部だ。人の表情を読み取る時も目の情報に集中するようになった。いずれ、iPhoneの顔認証もマスク越しにされるようになるのだろう。

 久しぶりに映画館に行くと全席が解禁となり、両隣に人が座った。安全だと聞かされていても、身近に他者を感じ、緊張した。パンデミックの1年間で積み上げてきた危機意識は理屈でなくわたしを怯(おび)えさせた。この再生の過程をライブハウスなど音楽の現場がこれから追っていくことになると考えると、気が遠くなる行程にめまいがする。

 この1年、恋人や家族、親しい友達など「身内」と呼べる存在に安心した人は多かったのではないか。そして、「気を許せる存在」と「赤の他人」との間にはよりはっきりとした線が引かれた。今、我々は人と人だけでなく、あらゆるものとの距離の方程式が組み替わる、その渦中にいる。眼鏡店で働く友人は「客が増えている」と言った。パソコンの画面をにらみすぎているせいでわたしも字が読みにくくなった。これだって距離の変革が生…

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