箱根ガラスの森美術館 炎と技の芸術 ヴェネチアン・グラス至宝展 24日開幕 傷ついた心、癒やす輝き

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

 <箱根ガラスの森美術館 25th aniversary>

正面玄関からの眺望。遠方に白い蒸気を噴く大涌谷が見える=三枝泰一撮影 拡大
正面玄関からの眺望。遠方に白い蒸気を噴く大涌谷が見える=三枝泰一撮影

 箱根ガラスの森美術館の開館25周年特別企画「炎と技の芸術 ヴェネチアン・グラス至宝展」が24日、同美術館で開幕する。地中海世界の輝きを映すベネチアングラス。繊細優美な装飾芸術の世界をつくりあげ、その遺産は現代のガラス工芸にも大きな刺激を与え続けている。多様な視点でその魅力を紹介してきたが、今回は、過去の展覧会で注目を集めた名品を厳選。現代作家の作品と併せ、約80点を展観する。【三枝泰一】

はりに刻まれた「CREDO QUIA ABSURDUM」の文字 拡大
はりに刻まれた「CREDO QUIA ABSURDUM」の文字

 注意しないと、見落としそうな場所だ。美術館の正面玄関の裏側のはりに、その言葉は刻まれている。

 CREDO QUIA ABSURDUM

 「荒唐無稽(むけい)なるがゆえに我それを信ず」という意味のラテン語だ。帝政ローマ時代の哲学者、テルトゥリアヌス(160~220年)の言葉である。

 岩田正崔(まさたか)館長は、「荒唐無稽」を「非現実的な世界」という言葉に置き換える。美術館の正面玄関をくぐると、ベネチアの運河をイメージした広い池と中世の館を模した建物群が広がる。遠方には箱根の山々と、ひときわそびえる大涌谷の景観。大自然を舞台に味わうガラス装飾の世界--。まさに「非現実的な世界」だ。

 「日常からの解放が、新たなインスピレーションを生む」。オープンから25年、岩田館長が言い続けてきた言葉だ。コロナ禍にゆさぶられた1年が過ぎた。今は、もう一つの言葉が加わる。

 「箱根の新緑とベネチアングラスの輝きは、傷ついた私たちの心を、きっと、癒やしてくれる」

古代の光、今に

長頸瓶(ちょうけいびん) 拡大
長頸瓶(ちょうけいびん)

 紀元前15世紀ごろのメソポタミアで生まれたモザイクグラスが源流といわれる。その後の発展は古代ローマの地中海支配と軌を一にし、現代のベネチアングラスに受け継がれている多彩なモザイクや、造形技術に革命をもたらした吹きガラス器、ガラスの装身具などが生まれた。

 その後、2000年近く土の中で眠っていたローマ時代のガラス器は、長年にわたる地下水の染みこみで表面に化学変化が起きた。発掘された今、これらの表面に光を当てると、光の屈折で虹色に輝く。「銀化」といわれる自然の現象で、実に神秘的だ。

 古代のガラス製造はローマ帝国の崩壊とともにいったん衰退するが、その技法は引き継がれ、13世紀、ベネチア共和国で復活する。

人物行列文壺(つぼ) 拡大
人物行列文壺(つぼ)

東西の融合、開花

点彩花文蓋付(ふたつき)ゴブレット 拡大
点彩花文蓋付(ふたつき)ゴブレット

 地中海の覇権を確立した海洋国家ベネチア。そこは東西交易の拠点でもあり、東方から伝わったエナメル彩による絵付けや、幾何学的なイスラム様式の点彩・金彩が、ガラス器を一層華やかなものにした。

レース・グラス蓋付(ふたつき)ゴブレット 拡大
レース・グラス蓋付(ふたつき)ゴブレット

 15世紀、ルネサンスの追い風を受けて、ベネチアのガラス産業は絶頂に向かう。その代名詞と言える存在が、レースグラスだ。貴婦人がまとう優美なレース衣装の繊細さを、乳白色の文様で表現した。本物の糸レースをガラスに封じ込めたかのような印象だ。

メディチ家紋章文コンポート 拡大
メディチ家紋章文コンポート

 欧州の王侯貴族の紋章を入れた「祝宴の器」も盛んに作られた。ベネチアは当時のガラス産業を独占した。

職人たちの挑戦

TORO(雄牛) 拡大
TORO(雄牛)

 大西洋・インド洋航路の発展は地中海交易の役割を下げ、ベネチアは国力衰退に直面する。17世紀には、ボヘミア(現チェコ)をはじめガラス産業のライバルが欧州各国に台頭。18世紀末、ナポレオンの侵攻で共和国は崩壊する。

 危機の時代は、個人が自由に能力を競う近代化の時代でもあった。卓越したガラス職人らは絶頂期の制作技術を復興させると同時に、アールヌーボー(新しい芸術)に挑む。

 「華麗なる一族」とうたわれたジュゼッペ・バロビエール(1853~1942年)は、「風にそよぐグラス」に代表される超絶技巧を世界に発信。第二次大戦後のイタリアを舞台に、ピカソ、シャガール、コクトーらのデザインをガラス造形にしたエジディオ・コスタンティーニ(1912~2007年)のプロジェクトは、創意と活力に満ちた新しいべネチアングラスを印象づけた。

21世紀の可能性

風にそよぐグラス 拡大
風にそよぐグラス

 21世紀を見つめ、挑戦を続ける日・伊の現代作家4人の作品も紹介する。

 ベネチアでは既に途絶えてしまったベネチアン・ビーズ・フラワーの製法を今に伝える下永瀬美奈子さん▽ベネチアと和の心の融合を探る小西潮さんと江波冨士子さん▽独特の感性でベネチアンビーズを斬新なコスチュームジュエリーに仕上げるパオラ・パスクァリンさん――。ベネチアングラスの新たな可能性に迫る。


拡大

<会期>4月24日(土)~11月28日(日)。午前10時~午後5時半。入場は午後5時まで。会期中無休。

<会場>箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町仙石原)。

<入館料>一般1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円。館内の500円分利用券をセットにしたスペシャルチケットは一般2000円、高校・大学生1600円。

主催 箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社

後援 イタリア大使館、イタリア文化会館、箱根町

協力 箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ

あわせて読みたい

注目の特集