「人間、夢がなくっちゃ」 57歳で大学野球デビュー、挫折乗り越え

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大学野球デビューを果たした名古屋工業大の加藤文彦さん=名古屋市千種区で2021年4月4日午前11時45分、高井瞳撮影 拡大
大学野球デビューを果たした名古屋工業大の加藤文彦さん=名古屋市千種区で2021年4月4日午前11時45分、高井瞳撮影

 4月3日に開幕した愛知大学野球春季リーグ戦で、親子ほど年齢の離れた大学生に交じり、公式戦初出場を果たした選手がいる。名古屋工業大硬式野球部に所属する加藤文彦さん(57)。中学時代、吃音(きつおん)が原因で一度は遠ざかった野球にもう一度挑戦したいと昨春、同大の夜間学部に入学した。奮闘する加藤さんの姿に、SNS上では「監督より年上なのでは」「俺たちの希望の星」などと注目が集まっている。

 4月3日、愛知県刈谷市の愛知教育大グラウンドで行われた名古屋外国語大との試合。九回2死、突然監督から声を掛けられ加藤さんは一塁の守備についた。公式戦ならではの緊張感を味わいつつ、何度も守備位置を確認した。味方投手が打者を三振に仕留め、試合終了。加藤さんは「初の公式戦は、整列しただけでした」とちゃめっけたっぷりに振り返ったが、「野球ができるうれしさを改めて実感した」と話す。

 小さいころから野球が大好きだった。近所の寺で友達と見よう見まねで野球を始め、中学で野球部に入った。しかし、吃音のため試合中の声がうまく出せず、チームになじめなかった。ある日、練習に行くとスパイクの中に生きたカエルが入っていた。次の日から、練習に行けなくなった。

 高校進学後も、野球部には入らなかった。グラウンドに響くノックの音や練習の声を聞きながら、学校と家を往復する日々。大学ではヨット部に入ったが、心にはいつも野球への憧れがあった。

 還暦が近づいてきたある日、政府の掲げる「人生100年時代」のキャッチフレーズに心を突き動かされた。「いくつになっても、チャレンジはできる。もう一度、野球をして夢を追いかけたい」と一念発起。夜間に学べる名古屋工大の工学部物質工学科を受験し、見事合格を果たした。同大を選んだのは、野球部があり、自宅から通える距離にあるから。理系の学問を学んでみたいという思いもあった。

 10代や20代の若者に比べると、体力は大きく劣る。最初は、ダッシュすればチームメートに追い抜かれ、ボールを投げるだけで肩が痛くなった。仕事があるため、練習は週末しか参加できない。遅れを取り戻そうと、毎朝1時間のランニングをこなし、職場の昼休みには近くの山で坂ダッシュをして体力作りに励む。チームメートは「最初は新しいコーチかと思って戸惑った。でも、今はチームの良い刺激になっています」と語る。

 同大野球部は現在、最も順位が低い3部リーグに所属している。加藤さんの夢は、昇格して1部リーグに入り、さらに優勝して神宮球場の舞台に立つことだ。「実現が難しいことは分かっている。でも、人間、夢がなくっちゃ頑張れないでしょ」。57歳の青春は始まったばかりだ。【高井瞳】

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