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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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ニューヨークの摩天楼エンパイアステートビルが開業したのは…

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 ニューヨークの摩天楼エンパイアステートビルが開業したのは、今から90年前の1931年5月1日だ。ゼネラル・モーターズの株主だった富豪らが建設したが、ライバルのクライスラーが世界一高いビルを建てると知り、設計を急きょ変えて追い抜いた▲競争を過熱させた好況は去り、完成は恐慌のさなかだった。大半が空室で「エンプティー(空っぽの)ステートビル」と皮肉られた。当時を代表する作家フィッツジェラルドは「廃虚の空にぽつんとそびえ立っていた」と不況で見えてきた荒廃の象徴として描いた▲コロナ下の日本で見えたのも、政府が一時は「戦後最長の景気回復」とアピールした経済の深刻な実態だ。非正規で働く女性という弱い立場の人が困窮した▲政府の統計によると、女性の失業率は2%台後半とコロナ前をやや上回る程度だ。だが野村総研の試算では、仕事が半分以下に減り、休業手当も出ない非正規労働の女性は100万人超もいる。こうした「実質的失業者」も含めると失業率は一気に6%に悪化する▲東京都内のスーパーで試食販売をしていた63歳の女性も仕事が激減し、会社に休業手当を申請しても拒まれた。ようやく国の支援金をもらったが、直後に解雇された。女性は「会社に居づらくなるので手当の申請すら控える人も多い」と打ち明ける▲3度目の緊急事態宣言で雇用不安が再び高まっている。菅義偉首相は「失業率は先進国で最も低い」と強調するが、政府に見えていない問題はまだあるはずだ。

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