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混迷する東京五輪準備 危機への対応力が足りぬ

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 東京オリンピック・パラリンピックの準備が混迷している。7月23日の五輪開幕まで3カ月を切ったが、依然、観客制限の具体策が定まらない。

 大会組織委員会は海外客の受け入れを既に断念している。国内の観客制限については、橋本聖子会長が4月中に決定する考えを明らかにしていた。

 だが、新型コロナウイルス変異株による感染拡大のため、6月まで先送りするという。橋本会長は「ギリギリの判断として無観客という覚悟を持っている」と危機感をにじませた。

 決定が遅れれば、準備に大きな支障が生じる。

 観客数によって、チケットの払い戻しや再抽選が必要になる。警備やボランティアの配置、公共輸送計画なども見直しを迫られる。

 とりわけ懸念されるのは、医療体制への影響だ。

医療体制に拭えぬ不安

 政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長は国会で「五輪の(開催可否の)議論をしっかりやるべき時期に来た」と警鐘を鳴らした。

 ここに来て、不安要素が次々と表面化している。

 緊急事態宣言下で医療体制が逼迫(ひっぱく)する中、組織委は看護師500人の派遣を日本看護協会に求めた。開催に医療スタッフは必要だが、こんな時期に要請するのでは無神経と言われても仕方ない。今までどんな協議をしてきたのか。

 丸川珠代五輪担当相は、東京都から大会中の医療体制が示されていないとして苦言を呈し、小池百合子都知事は「実務的に詰めている」と反論した。足並みがそろっていないことが露呈した。

 選手の負傷や病気への対応だけでなく、観客を入れる場合は熱中症対策が欠かせない。多くの医師や看護師が必要となれば、コロナ対応に追われる地域医療にさらに負担をかけることになる。

 組織委は大会中、選手にPCR検査や抗原検査を毎日実施する方針だ。これにも、医療現場の負担増を心配する声が出ている。

 選手や大会関係者の人数も明確になっていない。このため、検査数や必要な医療スタッフの数も決まらない。これで有効な感染対策は立てられるのだろうか。

 ワクチン接種の遅れも影を落としている。

 昨年の延期決定後、安倍晋三前首相は「国内外の英知を結集し、治療薬、ワクチンの開発を急ぎたい。五輪を開催する上で極めて重要だ」と述べていた。

 ところが、大会に間に合わないことが分かると、菅義偉首相は「接種は開催の前提としない」と方針を翻した。

 自国でのワクチン接種の遅れを理由に五輪予選に参加しない国も出てきた。

 飛び込みのテスト大会と五輪最終予選を兼ねたワールドカップがきょうから東京で開かれる。

 しかし、オーストラリアは出場を辞退した。選手がまだワクチンの接種を受けておらず、同国の連盟は「現時点では公正で安全な五輪予選を開催するのは不可能」と不参加の理由を発表した。

 接種の有無によって参加が左右されれば、競技の公平性にも疑問符がつく。

国民感覚と大きなずれ

 日本代表選手にワクチンを優先接種すべきだという意見がある。しかし、国民の接種が進まない中、社会の目は厳しい。「五輪は国家プロジェクトだから」という特権的な考えは到底受け入れられないだろう。

 コロナ下の五輪に求められるのは、社会の変化や危機を直視し、柔軟に対応する力だ。

 五輪が、人々の健康や安全をないがしろにするイベントと受け取られるのは残念だ。

 組織委はチケット収入を確保するため、観客を入れての開催を望んでいる。観客制限の決定が遅れている最大の理由だ。

 だが、感染力の強い変異株が全国各地に広がっている。医療体制に悪影響を与えるようなことがあってはならない。

 開幕が近づいても、国民感覚とのずれは大きくなるばかりだ。「安全安心な大会」と繰り返すだけでは足りない。丁寧な情報発信に努めなければ、国民の理解を得ることはできないだろう。

 残された準備期間は短い。組織委や東京都、政府は今こそ、社会とのつながりを意識し、国民が納得できる大会のあり方を提示すべきだ。

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