「自分らしくいられる場所で」 小豆島で生きる性的少数者の願い

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小豆島町役場で松本篤町長(左)に宣誓書を手渡す高橋瑞佳さん(右)とパートナーの女性=香川県小豆島町で2021年4月14日午後1時28分、西本紗保美撮影 拡大
小豆島町役場で松本篤町長(左)に宣誓書を手渡す高橋瑞佳さん(右)とパートナーの女性=香川県小豆島町で2021年4月14日午後1時28分、西本紗保美撮影

 LGBTなどの性的少数者のカップルを自治体が結婚に相当する関係と証明する「パートナーシップ宣誓制度」が、香川県内でも広がりつつある。4月には小豆島、土庄、多度津の3町で導入され、導入自治体は計6市町となった。長い間、社会から「ないもの」同然に扱われてきた当事者たちの思いを取材した。

 「こんな小さな島にも、当事者がいると知ってほしい」。小豆島町在住の高橋瑞佳(みずか)さん(36)は4月14日、パートナーの女性(30)と、小豆島町役場でパートナーシップ宣誓を申請し、町公認の島内第1号カップルとなった。

 県内では三豊市が2020年1月に初めてパートナーシップ宣誓制度を導入しており、毎日新聞の取材によると、4月末時点で6市町で15組のカップルが誕生している。

周囲からは「ずうちゃん」の愛称で呼ばれている高橋瑞佳さん=香川県小豆島町で2021年4月12日午後3時57分、西本紗保美撮影 拡大
周囲からは「ずうちゃん」の愛称で呼ばれている高橋瑞佳さん=香川県小豆島町で2021年4月12日午後3時57分、西本紗保美撮影

 高橋さんは出生時の性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーで、身体や戸籍は女性のままだが、男性として暮らしている。

 3人きょうだいの末っ子として小豆島町で生まれ、幼い頃から赤やピンクの洋服を着せられたが、本当は青が好きだった。小学生で初めて好きになったのは女の子。「私は間違っているんだ、男の子を好きにならなきゃいけないんだ」と思っていた。

 島内の高校を卒業後、大阪府内のファッション系の専門学校に進学し、男性と交際した。当時は自分がバイセクシュアル(両性愛者)なのだと納得した。妊娠がわかり、小豆島に戻って結婚。21歳で男の子を出産した。

 だが、4カ月半後、「乳幼児突然死症候群」で子どもを亡くした。生きる気力を失い、重度のうつ病とパニック障害に陥った。解離性同一性障害とも診断され、女性と男性の二つの人格が現れた。「この頃はほとんど記憶がない」と振り返る。夫もうつ病を患い、その後離婚した。

「女性を演じている」という感覚

パートナーシップ宣誓制度を小豆島で初めて申請した高橋瑞佳さん(右)とパートナーの女性=香川県小豆島町で2021年4月14日午後1時47分、西本紗保美撮影 拡大
パートナーシップ宣誓制度を小豆島で初めて申請した高橋瑞佳さん(右)とパートナーの女性=香川県小豆島町で2021年4月14日午後1時47分、西本紗保美撮影

 高橋さんは髪の毛を伸ばし、スカートをはく自分に対し「女性を演じている」という感覚があった。「幼少期に『自分がおかしいんだ』と自我が抑制され、『女性』の人格を作り上げたのかもしれない。本来の心は男性なのでは」との思いが強くなっていった。

 実家で療養し、日常を少しずつ取り戻した。31歳の厄払い祈願を期に「もう女性の人生はいい。これからは男性として自分らしく生きよう」と決意し、胸の下まであった髪の毛をバッサリと切った。自分を「俺」と呼び、祖父の葬儀も男性用のスーツで出席した。

 周囲の友人にも打ち明け、「彼女がほしい」と宣言。5年前、高橋さんの実家が営む牛乳配達の仕事を手伝う中で、パートナーの女性と知り合った。「俺のことは男だと思ってね」と話し、2人は交際を開始。周囲から「いつも一緒だね」と言われるようになった。高橋さんの両親も女性を家族として受け入れ、やがて実家で一緒に暮らし始めた。2017年には小豆島の性的少数者の団体「えにし」を仲間と設立し、SNSやチラシで理解の推進や孤立防止のための情報発信を始めた。

 高橋さんたちは今回、町役場で宣誓の証明書を町長から受け取る様子をマスコミに公開した。報道陣の取材に対し、高橋さんは「これで何かが変わった気はしない。いざというときに(証明書が)使えるかどうか疑問もある」と淡々と話し、「制度があれば周囲に理解してもらいやすい。こういう形もあるんだよと知ってほしい」と多様性の理念が社会に広がることを期待した。パートナーの女性も「『結婚』に一歩近づけたのがうれしい」と語った。松本篤町長は取材に対し「誰もが自分らしく生きられる世の中であるべきだ」と述べた。

 ただ、現状では周囲から「いつか女に戻る」などと無理解な言葉を投げられることもあり、「LGBTの知識を持っているだけでは不十分で、人間関係の中でその人を受け入れられるかどうかが肝心」と高橋さんは言う。「結局は人柄なんだと思う。自分を受け入れてもらうには、まずは他人を受け入れたい」と考え、周囲に優しく接するよう心がけている。

 高橋さんにとって今回の宣誓は、当事者であることを隠して生きる人たちへのメッセージでもある。「『田舎だから偏見がある』と隠すのは簡単だけど、自分らしくいられる場所で、自分も周囲も大事にすれば、よほど楽に生きられると思うよ」。つらい過去を経て今、ありのままに生きる「彼」は穏やかに笑った。【西本紗保美】

パートナーシップ宣誓制度

 性的少数者らのカップルが本人確認や独身を証明する書類などを提出し、自治体が婚姻に相当する関係だと独自に認める制度。財産の相続や税金の控除など法律上の権利は生じないが、公営病院での面会・手術の同意や保険金の受け取り、公営住宅の入居手続きなどが認められるとされる。

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