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コロナ下の格差拡大 支え合う社会描き直そう

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 新型コロナウイルス禍は日本の深刻な経済格差をあらわにした。弱い立場の人ほど打撃は大きく、3度目の緊急事態宣言で格差がさらに広がることが心配される。

 感染「第4波」が押し寄せた4月上旬、生活困窮者を支援するNPOが東京・新宿の都庁前で開いた相談会に300人近くが長い列を作った。相談会を始めた1年前の倍以上だ。失業が長引き、蓄えが尽きかけた人が目立った。

 並んでいた50代男性は下請けの建設会社で非正規雇用で働いていた。コロナで工事が止まり、昨年夏に会社が倒産して職を失った。

 30代まで大企業のサラリーマンだった。交通事故で体を壊し退職したが、「稼ぐのは自分の責任」との思いは変わらず、コロナ下でも生活保護は受けなかった。

効率優先のひずみ露呈

 だが仕事は見つからなかった。1人暮らしで職がないと、社会とのつながりは薄れる一方だった。預金を取り崩す生活は限界を迎え初めて相談会を訪れた。「コロナ禍になって、自分だけで頑張る難しさがよく分かった」と語った。

 「雇用の調整弁」とされる非正規労働者は解雇などで前年比100万人近くも減っている。失業で社会から孤立すると、不安を1人で抱え込みやすくなる。昨年の自殺者数は11年ぶりに増えた。

 非正規労働者が働く人全体の約4割も占めるようになったのは、安倍前政権下だった。国内総生産(GDP)を戦後最大の600兆円へと大幅に増やす目標を打ち出し、成長と効率優先のアベノミクスを推進した。そのひずみがコロナ禍で露呈した。

 だが菅義偉首相も、目指す社会像にまず「自助」を掲げ、アベノミクスと同じ新自由主義の政策を進めようとしている。

 看板政策とアピールするデジタル化も経済の効率化が主な狙いだ。首相は「経済を再び成長軌道に戻す」と繰り返すが、コロナ前の姿に戻すだけなら、国民の不安をなくす処方箋とは言えない。

 「近代経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスは企業の自由な活動が富を生み出すと唱え、新自由主義のルーツとも言われている。だが一方で、人間は相手に共感できる存在であり、共感を通じたつながりこそ、経済活動の基盤になると主張していた。

 人間のつながりは国民の幸福感を左右する。国連による世界幸福度ランキングは、コロナの影響が注目された今年もフィンランドが4年連続で首位だった。充実した社会保障など助け合う仕組みがしっかりしているからだ。

 日本は56位と低迷している。いくらGDPを増やしても、それだけで国民の幸福度は高まらない。

 コロナ禍は、日本社会のもう一つの課題にも大きな影響を及ぼした。人口減少の加速である。

 政府はコロナ前、生まれる子どもの数が少ないままなら、2053年に人口が1億人を割ると予測していた。

 コロナ禍による家計の悪化などで昨年生まれた子どもの数は過去最低となった。1億人割れは49年に早まる可能性があるとの民間試算も出ている。

欠かせない富の再分配

 アベノミクスは「1億人維持」との目標を掲げ、菅政権も引き継いだ。国の規模が大きいほど経済成長も高まるというのは右肩上がりの時代の発想だ。少子化対策は重要だが、現実離れしたスローガンに固執して高成長を追い求めると、国民にしわ寄せが及ぶ。

 持続可能な社会のあり方を研究してきた広井良典京都大教授は「日本は人口が減って低成長になる成熟社会を迎えている。国民が富を分かち合って支え合う社会を目指す必要がある」と提言する。

 コロナ禍で分かったのは、人間のつながりの大切さだ。国民が支え合う仕組みに作り直すことが、人口減少時代にふさわしい社会の構築につながるのではないか。

 成長優先の政策を転換し、国の将来像を描き直す必要がある。国民が安心して暮らせるよう、格差の是正に本格的に取り組まなければならない。

 所得の再分配を進めることが欠かせない。株高で潤った富裕層や高収益の大企業への課税を強化し、非正規で働く人などへの支援を拡充することが求められる。最低賃金の引き上げも急務だ。

 経済的に苦しい人々の暮らしが良くなると消費の裾野も広がる。日本経済全体の足腰が強まり、健全な発展の土台となるはずだ。

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