「本を読みたい。教科書貸して」 小5のお願い、立ち上がる18歳

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児童養護施設の子どもたちに本を送るクラウドファンディングへの支援を呼びかけるバナー画像=JETBOOK作戦事務局提供 拡大
児童養護施設の子どもたちに本を送るクラウドファンディングへの支援を呼びかけるバナー画像=JETBOOK作戦事務局提供

 児童養護施設の子どもたちにあなたの最高の一冊を――。そう呼びかけ、児童養護施設の子どもたちに本を送るプロジェクト「JETBOOK(ジェットブック)作戦」のクラウドファンディングが行われている。企画したのは、児童養護施設で育った大学1年生の山内ゆなさん(18)。きっかけは「本を読みたいから教科書を貸してほしい」という小学5年生の言葉だった。【藤沢美由紀/デジタル報道センター】

 どんなに遠くにいても、本を通じてジャンボジェット機のように力強い思いを届けたい。そして子どもたちにとって、ジェット機のように空高く羽ばたく機会となるように。名前にはそんな願いを込めた。クラウドファンディングで支援すると、自分の選ぶ「最高の一冊」をメッセージと一緒に児童養護施設の子どもたちに送ることができる。目標とするのは参加者1万人、計3000万円。100施設に100冊ずつ、計1万冊届けることを目指す。それだけ多くの人を巻き込みたい理由が山内さんにはある。

児童養護施設に本を送る「JETBOOK作戦」を企画した山内ゆなさん。未成年のため、メディアなどに顔は出さずに活動している=JETBOOK作戦事務局提供 拡大
児童養護施設に本を送る「JETBOOK作戦」を企画した山内ゆなさん。未成年のため、メディアなどに顔は出さずに活動している=JETBOOK作戦事務局提供

「聞いてごめんね」大好きな施設なのに

 山内さんは2歳から16年間、関西地方の児童養護施設で暮らした。児童養護施設は、さまざまな理由で親と暮らせない子どもが入所する。山内さんが育った施設は大規模で、多い時で約100人との共同生活を送った。「ルールは厳しいけれど、みんなで破って、みんなで怒られたりもした。けんかもして、でも横に寝て、ずっと一緒の生活でした」。何でも話せる「一生の仲間」もでき、施設のことが大好きだという。

 近所の小中学校に通っていた間は、児童養護施設を当たり前の存在と感じていたが、離れた地域の高校に進学すると様子が違った。児童養護施設に住んでいることを友人に話すと「聞いてごめんね。頑張ってね」と言われ、空気が重くなった。話してはいけないことのように感じ、児童養護施設へのイメージは周囲と自分でギャップがあると気づいたという。同じような経験をしている仲間も多く、「自分たちは悪くないのになぜ隠さなければいけないのか。たくさんの人に児童養護施設を知ってもらえたら、施設の子が生きやすくなるのに」と思うようになった。

昨年12月に実施した1回目のプロジェクトで児童養護施設に送られた本=JETBOOK作戦事務局提供 拡大
昨年12月に実施した1回目のプロジェクトで児童養護施設に送られた本=JETBOOK作戦事務局提供

情報限られ、教科書が貴重な読み物に

 転機は2020年、高校3年のときだ。同じ施設に暮らす小学5年の女の子から「本を読みたいから国語の教科書を貸してほしい」と言われ、教科書が貴重な読み物だということにショックを受けた。施設ではネット環境が整っておらず、本はあるものの充実しているとは言えない状況。山内さん自身も、アルバイトをして高校2年で携帯電話を買うまで、得られる情報が限られていた。そこで、本を増やしたいと考えた。

 困難を抱える高校生を対象としたキャリア教育などのプログラムに参加していたことから、プログラムを主催するNPO法人CLACKの平井大輝理事長らに相談し、児童養護施設について知った上で本を送ってもらうことを計画。施設の職員には「前例がない」などと反対されたが、2週間かけて施設長を説得した。

 20年12月、ジェットブック作戦の「第1弾」として、まずは100冊を目標に支援を募った。予想を超える反響があり、約300冊を、自身の暮らした施設を含む2施設に届けることができた。

昨年12月に実施した1回目のプロジェクトで支援者から寄せられたメッセージ=JETBOOK作戦事務局提供 拡大
昨年12月に実施した1回目のプロジェクトで支援者から寄せられたメッセージ=JETBOOK作戦事務局提供

東尾理子さんら広がる支援の輪

 ジェットブック作戦は山内さん、平井理事長ら7人で事務局を運営し、人づてに支援の輪が広がっている。

 「応援メンバー」として名を連ねるプロゴルファーの東尾理子さんは「ゆなちゃんのまっすぐな気持ちを応援すると同時に、その想(おも)いが、いずれ児童養護施設を卒園して行く子どもたちだけでなく、多くの方たちの希望となるように願っています」、エッセイストの犬山紙子さんは「『最高の一冊を児童養護施設の子たちに贈りたい』。ゆなさんがそう思い、プロジェクトを立ち上げた意味。心から応援させていただきます!」とのコメントを寄せた。

 山内さんは今春、関西の大学に進学。児童養護施設を出て1人暮らしを始めた。自身もノンフィクションやエッセーなど本が好きという。「本は開くだけでたくさんの言葉に出会えるし、誰かの人生が詰まっています。本を通じて、子どもたちに言葉や人とのつながりを得る機会を届けられたら」。その先に「子どもたちが好きなことや、やりたいことを見つけ、周囲が挑戦を応援してくれる社会」ができることを願っている。

 厚生労働省によると、児童養護施設は全国で615カ所あり、約2万6000人(17年時点)の子どもが生活している。

 クラウドファンディングは5月31日まで。金額は3000円からで、目標金額の達成・未達成にかかわらず支援金を受け取る方式。参加すると事務局から送られるアンケートフォームに、本のタイトルと選んだ理由などを記入する。事務局が集まった情報を整理し、本を注文して施設へ届ける。参加や詳細はサイト(https://readyfor.jp/projects/JETBOOK)へ。

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