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コロナと専門知 対策に生かす体制強化を

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 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。

 効果のある対策を進めるには、専門家の知恵を活用することが不可欠だ。だが、この1年あまり、日本は「専門知」をうまく使いこなせていない。

 未知のウイルスのような想定外の課題に向き合うとき、政府も専門家も手探りで対応するしかない。だからこそ、政府は科学的根拠のある選択肢を可能な限り専門家から集め、判断していくことが求められる。

 ところが、日本の対策は場当たり的だと批判されている。どこに問題があったのか。

 発生当初、医学や医療の研究者で構成される専門家会議が設けられ、政策立案に助言した。

 「密閉・密集・密接」の「3密」を回避する呼びかけや、クラスター(感染者集団)対策が進められ、一定の成果を上げた。

助言軽視し感染再拡大

 一方、専門家会議は特別措置法に規定がなく、政府内での位置付けが明確ではなかった。

 疫学の予測に基づいて繰り返し情報を発信したことが、あたかも専門家が政策決定をしているかのように受け止められた。その姿勢が「前のめり」と批判されることもあった。

 このため、第1波が落ち着いた昨年7月、経済や法学などより広い分野の専門家も加わった「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が設置された。

 政府は、分科会の発足後、経済活動を活性化させようと、観光支援事業である「GoToトラベル」や外食需要の喚起策「GoToイート」を始めた。

 それまでの知見で、人の移動や飲食の場が、感染拡大につながることが懸念されていた。だが、菅義偉首相はGoToトラベルに関して「(感染拡大の原因という)エビデンス(根拠)はない」と押し切るなど、感染対策に逆行するような政策を進めた。

 その後、第1波を上回る第2波、第3波が起きた。さらに、専門家が変異株の脅威を警告していたにもかかわらず、検査体制の拡充など対策は後手に回り、その拡大を抑えることができなかった。

 2回目の緊急事態宣言の解除から、わずか1カ月で東京などで3回目の宣言を出す結果となった。

 一貫して見られるのは、専門知が十分に生かされず、事態が悪化する構図だ。

 政治家と専門家の役割分担もできていない。菅首相は、記者会見に分科会の尾身茂会長を同席させ、「先生からもよろしいですか」と政策の根拠について説明を求めることが多い。

 しかし、政策決定の説明を専門家に押し付けるのは筋違いだ。専門家の役割は本来、対策の効果と限界を説明することや、感染症の最新の知見を分かりやすく伝えることだ。

 海外では、ドイツのメルケル首相や台湾の蔡英文総統の取り組みが評価された。科学的な根拠に基づいた判断と、国民に寄り添うメッセージが共感を呼んだと考えられる。

 日本の政治家にも、科学的な考え方を理解したうえで、責任と覚悟を持って判断し、国民に自分の言葉で語りかけられる能力が求められる。

信頼回復へ検証が必要

 新型コロナを克服するには、国民の協力が欠かせない。カギを握るのは、対策の中身やそれを決めた政府への信頼だ。

 政府は、感染拡大の理由として「自粛疲れ」や「気の緩み」を指摘する前に、国民の信頼を取り戻す努力をすべきだ。

 まず、これまでに実施してきた対策の問題点を検証し、教訓を今後に生かすことが必要だ。

 国内の感染症対策の専門家は、世界に比べて層が薄い。検証を進めるために、海外の力を借りる方法もある。

 さらに、医療だけではなく、経済、法律、社会、文化など、幅広い専門知を政策に生かすことが求められる。

 期待されるのが、日本学術会議のような国内外にネットワークを持つ組織の役割だ。学術会議の約200人の会員の知見や人脈を、今こそ生かすべきだろう。

 専門知を政策に生かすシステムは、今後起きるかもしれない災害や次の新興感染症への対処にも欠かせない。

 そのための仕組みを構築することが、政治の責任だ。

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