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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「氷点」などの作品で知られる作家の三浦綾子さんは…

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 「氷点」などの作品で知られる作家の三浦綾子さんは敗戦の翌年まで北海道で小学校の教師をしていた。20歳の頃、1、2年生を受け持つ。50人以上の子どもたちの様子を連絡帳に書いて親に知らせた。「お手紙ノート」と呼んだ▲M夫君は両親と死別し、育ての父母に引き取られていた。その母がお手紙ノートに返事を書いてくれた。「最近、M夫は性格がとても朗らかになりました。今まではしなかった兄弟げんかをするようになったのです」▲家には実の息子や娘がいて、M夫君はいちばん年下だ。「いつになったらM夫は兄たちとけんかをするのか、食べ物のことでけんかをするのか、そればかりを楽しみにしておりました」。三浦さんは母の思いを知ってうれしかった▲今、家庭の経済苦や虐待で親と暮らせない子は約4万5000人。国は施設に預けるより、家庭での養育を優先する方針を打ち出した。だが里親への委託は約2割に過ぎない▲そもそも里親制度が十分に知られていない。自民党はこども庁を創設するというが、器づくりだけでなく、まず目の前の子どもたちを助けなければ。それぞれの家庭で、こどもの日を祝ってもらえる子を増やしたい▲三浦さんの教え子M夫君は千葉県の高校教師になり、育ての親の元へたびたび帰省した。親の愛情を確かに受け取って大きくなったと三浦さんは感じた。若き日の先生は「お手紙ノート」に彼の言葉を書き残していた。「先生、あんないいお母さん、世界じゅうにいないよ」

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