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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/148 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 心を決めきれないまま、竜介は、

 ――ごめんください、と、返事をほとんど期待しないまま、あまり力のこもっていない声を廊下の奥へ向かって投げてみた。

 すると、それに即座に反応して、二階のほうからがたがたと人が動く気配が伝わってきたのである。ドアがばたんと開く音。ばたばたという足音。その足音が階段を降りてきて、薄茶色のタオル地のガウンを着た小柄な老人が姿を現わした。竜介から三、四メートル離れたところで立ち止まると、

 ――何だ、うるさいな、と、その禿(は)げ頭の老人は不快そうな表情で、歪(ゆが)めた口の端から言葉を吐き棄(す)てるようにして言った。

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