福島を癒やす「すずめのコゼット」 小さな命がくれた希望と勇気

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絵本「すずめのコゼット」を朗読する冨澤利男さん=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後2時39分、礒野健一撮影 拡大
絵本「すずめのコゼット」を朗読する冨澤利男さん=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後2時39分、礒野健一撮影

 福島県南相馬市の柔道整復師、冨澤利男さん(64)とスズメ「コゼット」の出会いを題材にした絵本「すずめのコゼット」が、震災と原発事故に見舞われた福島の人々を勇気づけている。絵本の朗読会で大津市を訪れた冨澤さんは「ただ、そこにいてくれるだけで優しい心を与えてくれる」と目を細め、コゼットも冨澤さんに寄り添っていた。【礒野健一】

 2011年3月11日に発生した東日本大震災で、冨澤さんの自宅は倒壊や津波の被害は免れたものの、福島第1原発から約30キロの距離にあったため、約2カ月間、家族とともに山形県へ避難した。南相馬市に戻った後も街に活気は戻らず、寂しい気持ちで日々を過ごしていた。

コゼットの右目はなく、左目もほとんど見えていないという=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後3時40分、礒野健一撮影 拡大
コゼットの右目はなく、左目もほとんど見えていないという=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後3時40分、礒野健一撮影

 震災から6年あまりが過ぎた17年7月、冨澤さんは自宅の庭で、かぼそく鳴くスズメのひなを見つけた。羽毛はまだなく、両目も閉じたまま。強い夏の日差しもあり、「このままでは死んでしまう」と拾い上げ、牛乳をひたしたパンなどを与えた。スズメには右目がなく、泥が固まって閉じていた左目もほとんど見えていないことに気付いた。「自然界では生きられないだろう」と、子供の頃に読んだ本の登場人物から「コゼット」と名付け、保護することにした。

 同年9月、冨澤さんは、震災復興ボランティア活動の一環で南相馬市の住民の似顔絵を描いていた大津市の日本画家、鈴木靖将さん(77)に出会った。「この子の似顔絵を描いてください」。冨澤さんの胸ポケットから出てきたコゼットに驚き、その可愛らしさにひかれた鈴木さん。「コゼットを助けたのは私ですが、今はコゼットの存在が私や家族に癒やしと慰めを与えてくれているんです」。そう語る冨澤さんに感銘を受け、鈴木さんが絵を担当して、19年9月に絵本「すずめのコゼット」が出版された。

オカリナを演奏する冨澤利男さんの首筋にとまるコゼット=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後2時50分、礒野健一撮影 拡大
オカリナを演奏する冨澤利男さんの首筋にとまるコゼット=大津市小関町の三橋節子美術館で2021年4月17日午後2時50分、礒野健一撮影

 絵本の前半は、地震や津波から逃げ惑う人、原発事故で苦しむ動物たちなど、おどろおどろしいタッチの絵が続く。その後、冨澤さんをモデルとした少年「とっちゃん」がコゼットと出会い、そこから希望が広がっていく様子が描かれる。冨澤さんは「コゼットは今ここに生きてくれているだけで、震災でぽっかりと空いた僕の心の大きな穴を塞いでくれた。人間同士も同じで、ただ、いてくれるだけで癒やし、癒やされる存在はある。そんな関係を大切にしたい」と語る。

 4月17日に大津市の三橋節子美術館であった絵本の朗読会に、冨澤さんは読み手として、コゼットと一緒に参加。オカリナを吹く冨澤さんの首筋に寄り添いながら、コゼットも小さく鳴いていた。朗読会の後、手の甲にコゼットを乗せてもらった大津市の会社員、谷川尊憲(たかのり)さん(34)は「コゼットの命を感じ、元気づけられた。これからも被災地の皆さんを勇気づけてほしい」と話した。

 冨澤さんは「コゼットは何者にも代えがたい存在。これからも互いに支え合いながら、まだまだ道半ばの福島の復興を祈っていきたい」と、優しくほほ笑んだ。

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