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在京オケ4月の演奏会から~①大野和士×都響

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音楽監督・大野和士と東京都交響楽団 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
音楽監督・大野和士と東京都交響楽団 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

  4月の在京オーケストラの演奏会からいくつかピックアップして報告する。初回は音楽監督・大野和士指揮による東京都交響楽団の定期演奏会。現代フィンランドを代表する作曲家カレヴィ・アホ(1949~)のティンパニ協奏曲と都響の十八番であるマーラーの交響曲から第1番というプログラム。ティンパニ独奏は同団首席ティンパニ・打楽器奏者の安藤芳広が務めた。

(宮嶋 極)

【大野和士指揮 東京都交響楽団定期演奏会A】

 ティンパニといえば、NHK交響楽団が2019年10月の定期公演で井上道義の指揮によってグラスのティンパニ協奏曲を取り上げ、大きな注目を集めたことが記憶に新しい。この公演では植松透、久保昌一の2人の首席奏者がソリストを務め、彼らの名人芸によってこの楽器が持つ多くの可能性が示され、聴衆に新鮮な驚きをもたらしたことが後半に演奏されたショスタコーヴィチの交響曲の熱演と合わせて、聴衆の投票によるN響の年間ベスト公演に選ばれることにつながったと筆者は考えている。今回も安藤の妙技によってグラスの作品とはまた違った角度で、ティンパニのおもしろさが披露された。

 アホの協奏曲の特徴はひとりで演奏することによる目まぐるしいほどの音程の変化である。現代のティンパニは楽器の下に付いているペダルを使って音程を替えていくのだが、今回は5台の楽器で音程を替えながら、リズムの躍動にも増して旋律を聴かせることに重点を置いた作りになっているように感じた。安藤は時おり、マリンバを演奏するようにそれぞれの手に2本のマレットを持って複数の楽器(音程)を同時に演奏するなど、普段のオーケストラ曲では見られない奏法も交えながら、時に繊細にまた時には明快にと多彩なサウンドを聴かせていた。

 ちなみにティンパニには音程を替えるペダルに連動して動く目盛り(ゲージ)が取り付けられている。これが音程を決める一応の目安にはなる。奏者は本番前、楽器のチューニング時に目盛りを合わせておくのだが、実際に演奏する時の気温や湿度によってヘッド(皮)のテンションが変化するため、事前に合わせておいた目盛りとヘッドの張り具合(音程)が一致しないことも多く、最後はプレイヤーの耳が決め手となる。ティンパニ奏者にとって音程が目まぐるしく変わることはそれだけ大変なのである。

ティンパニ協奏曲でソロを務めた同団首席奏者の安藤芳広 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
ティンパニ協奏曲でソロを務めた同団首席奏者の安藤芳広 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

 後半のマーラーは弦楽器が16型のフル編成。この曲は4管編成なのでステージ上には約100人のプレイヤーが並んだ。コロナ禍で密を避けるためにほとんどのオーケストラがいまだ編成を絞っているため、コロナ禍前は日常的に目にしたこうしたステージの様子も今は壮観に映る。昨年夏以降に行われた検証実験の結果やその後に徐々に再開していった演奏会の実績からも器楽演奏における飛沫(ひまつ)感染のリスクはかなり低いことが分かってきたことを受けて都響はフル編成を〝解禁〟したのであろう。

 16型の弦、見た目だけではなく音も芳醇(ほうじゅん)である。都響の弦楽器セクションは厚く豊かなサウンドで知られているが、こうした時期に改めて聴くとその美点が一層際立ってくる。大野は持ち前の緻密な組み立てによって、作品の持つ構造を寸分違わぬ精度で実際の音楽にしていく。複数の旋律が絡み合う対位法の妙味を厚いハーモニーに埋もれさせることなく、明確に提示していく手法はなかなか興味深いものであった。都響にとってマーラーはこれまでガリー・ベルティーニ、エリアフ・インバルら名指揮者とのツィクルスをはじめ数々の名演を残してきた重要なレパートリーである。この日の大野との演奏は、過去の名演とはひと味違った独自性があり、このオーケストラの演奏史に新たな1ページを記すものであった。その完成度の高さに終演後の喝采は鳴りやまず、オーケストラ退場後に大野がステージに呼び戻されていた。なお、この日のコンサートマスターは山本友重が務めた。

公演データ

【東京都交響楽団 定期演奏会A】

4月20日(火)19:00 東京文化会館大ホール

指揮:大野 和士

ティンパニ:安藤 芳広

カレヴィ・アホ:ティンパニ協奏曲(2015)日本初演

マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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