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在京オケ4月の演奏会から~②大植英次×NHK交響楽団

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NHK交響楽団への22年ぶりの客演となった大植英次 写真提供:NHK交響楽団
NHK交響楽団への22年ぶりの客演となった大植英次 写真提供:NHK交響楽団

 4月の在京オーケストラのレビュー2回目は指揮者・大植英次が22年ぶりに登場したNHK交響楽団の定期公演に代わる4月公演から21、22日にサントリーホールで行われた演奏会について報告する。グリーグの二つの悲しい旋律、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番、シベリウスの交響曲第2番という北国の作曲家によるプログラム。ピアノは注目の若手、阪田知樹。

(宮嶋 極)

 大植の身上は人間味あふれる温かみを感じさせる音楽作りだと筆者は考える。この日の公演は大植のこうした持ち味がNHK交響楽団の高い合奏能力を得て、よい形で演奏に反映されたように感じた。

 前半のショスタコーヴィチのピアノ協奏曲でソリストを務めた阪田知樹はフランツ・リスト国際ピアノ・コンクール第1位を獲得(2016年)、アレクサンドル・ラザレフ、レナード・スラットキンら内外の著名指揮者やオーケストラと共演を重ねるなどして今、注目を集める俊英のひとりである。N響とは初共演。繊細なタッチと粒立ちの美しさが光るピアノはなかなか聴かせるものがあったが、欲をいえばショスタコーヴィチならではの硬質な響きや激しさ、ピーンと張りつめたような緊張感がもう少しほしかった。とはいえ今後が楽しみな若手であることは間違いないだろう。

 一方、このコンチェルトの魅力のひとつはトランペットのソロが加わることで、N響首席奏者の長谷川智之がソロ・パートを吹いた。朗々とした伸びのあるサウンド、安定した音程と細やかな表情付けが素晴らしく、このオーケストラの個々のプレイヤーの力量の高さを改めて示した格好だ。大植は2人のソリストの呼吸感を自然体で受け止めるような指揮ぶりでソロとオケの対話を手堅く成立させていた。

 メインのシベリウスは全体にゆったりとしたテンポでひとつひとつの旋律をたっぷりと歌い上げるような音楽作り。弦楽器の編成は12型と小さめであったが、音量面で不足を感じさせることはなく、収容人数を抑えたホール全体に豊かに響きわたった。ここでも長谷川のトランペットの柔らかく伸びやかなサウンドがシベリウスの広大な世界観を描き出すのに大きな役割を果たしていた。大植はN響の安定感あふれるアンサンブルと美しい響きをうまく活用して大きなクライマックスを築き上げた。

ショスタコーヴィチの協奏曲でソリストを務めた阪田知樹(ピアノ)と長谷川智之(トランペット) 写真提供:NHK交響楽団
ショスタコーヴィチの協奏曲でソリストを務めた阪田知樹(ピアノ)と長谷川智之(トランペット) 写真提供:NHK交響楽団

 大植が前回N響に客演したのは1999年6月の定期公演のAプログラムだった。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ピアノ=イヴァン・モラヴェッツ)、ブラームスの交響曲第1番などを取り上げ、パッションあふれる熱演を繰り広げたと記憶している。この時はABC三つのプログラムを将来が有望視されていた当時の日本の若手指揮者が振り分けた。ちなみにBプロは上岡敏之、Cプロは大勝秀也が指揮した。

 大植はミネソタ管弦楽団音楽監督、ハノーファー放送フィル首席指揮者、バルセロナ交響楽団音楽監督などの大きなポストを歴任。ニューヨーク・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管など欧米の名門オケに客演を重ねるなどの活躍を見せた。大阪フィル音楽監督を務めていた2005年に日本人指揮者としては初めてバイロイト音楽祭に招かれ、「トリスタンとイゾルデ」の新プロダクション(クリストフ・マルターラー演出)を指揮するという栄誉に浴した。ところが、バイロイトでは劇場の特殊なアコースティックに不慣れだったこともあり彼本来の実力を発揮することができないまま、その指揮は1年で終了。以来、好・不調の波が目立つ時期が続いた印象が強い。この日、N響と紡ぎ出したような正攻法でありながら、人間味あふれる温かい演奏こそが、大植本来の音楽であり、よいオーケストラとの共演によってそれが引き出されることが再確認できた。

公演データ

【NHK交響楽団4月公演】

4月21日(水)18:00 、22日(木)18:00 サントリーホール

指揮:大植 英次

ピアノ:阪田 知樹

トランペット:長谷川 智之

グリーグ:二つの悲しい旋律 Op.34

ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番ハ短調Op.35

シベリウス:交響曲第2番ニ長調Op.43

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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