人気漫画「チ。」で魚豊さんが描く変革期とは 今を精いっぱい生きる 多様な価値観に触れ 言葉には人を救う力
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地動説をテーマに「真理」を追究する人々を描いた漫画が話題を呼んでいる。漫画誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載中の「チ。-地球の運動について-」だ。作者は弱冠23歳の魚豊(うおと)さん。新進気鋭の漫画家に、作品でも描かれた変革期の生き方について聞いた。
漫画は15世紀の中世ヨーロッパで、地動説が異端思想として激しく弾圧されている架空のP王国が舞台だ。そこで、真理を探究する若い研究者や学生らが、地球が他の惑星とともに太陽の周りを回っているとする「地動説」の証明に命を懸ける姿を描く。随所にちりばめられたプラトンなど古代ギリシャの哲学者の言葉が、登場人物のパンチラインを補強する作風に、表現への強いこだわりが感じられる。
2020年9月から連載開始。同年に発刊された漫画を対象に書店員らがお薦めを選ぶ「マンガ大賞2021」で2位に輝くなど脚光を浴びた。現在3巻まで出ている単行本の総発行部数は計34万部、5月21日に全巻で増刷を予定している。
魚豊さんは本名や顔などを一切公表していない。理由を聞くと「ミステリアスかなと思って」と短く答えた。終始見せる人懐っこい笑顔が印象的だ。
天動説から地動説への知の転換が起きた「コペルニクス的転回」の時代を描いた作品は、パラダイムシフトの物語でもある。新型コロナウイルスの感染拡大により社会・経済の転換点にある現代と重なる面もあり、生き方を模索している人々に共感を呼んだのかもしれない。快進撃の理由について担当編集者は「人生において、突き抜けたくても突き抜けられない人の心に刺さったのでは」と分析する。
地動説と言えば、ガリレオ・ガリレイの「異端審問」を思い浮かべる人は多いだろう。地動説を提唱したために異端審問を受け有罪とされた。魚豊さんは「非日常を舞台に、哲学と暴力を絡めた作品を描きたくて、このテーマに行き着いた」という。題名の1文字に込める意味は、知性の「知」、暴力の「血」、地動説の「地」だ。
「史実では、異端に対する厳しい弾圧はそれほどはなかったようだ」と説明しつつ、漫画では、地動説を信じる人が激しい拷問や火あぶりの刑に遭う。それでも学者らは命がけで真理を求めて地動説の研究を続ける。現代とはかけ離れた狂気の世界を描いているが、学者らの生き様に読者はぐっと引き込まれる。
「どんな人間も善と悪の間で揺れ動いています。だから、悪役も『単純な悪』ではない」。それを表すように、学者らを拷問する…
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