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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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志村喬さん演じる市役所の課長が夜の公園でブランコをこぎ…

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 志村喬(しむら・たかし)さん演じる市役所の課長が夜の公園でブランコをこぎ、「ゴンドラの唄」を口ずさむ。名シーンで知られる黒沢明(くろさわ・あきら)監督の「生きる」を、ロンドンを舞台にリメークする計画が進む。ノーベル文学賞を受賞した長崎出身の英国人作家、カズオ・イシグロさんが脚本を執筆中だ▲死期を悟った課長は小さな公園の整備に最後の生きがいを見いだし、お役所仕事の壁を破って完成させた。市民の利益より組織を優先する官僚制度の弊害や、その中で正しく生きようとする人たちの葛藤は、万国共通のテーマなのだろう▲この人も葛藤に苦しんだ。「森友学園」への国有地売却を巡り、決裁文書の改ざんを苦に自死した赤木俊夫(あかぎ・としお)さんだ。「疑惑や不信を招くような行為をしていませんか」。常に持ち歩いていたという、自己点検項目を列挙した「国家公務員倫理カード」は文字がすり切れていた▲改ざんに関連した文書をまとめた「赤木ファイル」は、財務省の指示内容や改ざん前後の記載の比較が一目でわかるように整理されていたそうだ。国は「探索中」としていたが、裁判所の求めでようやく存在を認めた▲「夫が何を誰に指示され、どう抵抗し、何を改ざんし、何に苦しんでいたのかが書いているはずです」。妻の雅子(まさこ)さんが小紙に寄せた手記で指摘している▲「国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正に職務を執行していますか」。カードの点検項目の一つだ。政府に自覚があるなら、ファイルの全容を開示するしかあるまい。

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