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(岩波書店・1980円)
土中から探り当てた、言葉の感触
二〇一九年六月から二〇年十一月まで。民俗学者と歴史学者が書簡を交わした一年半は、一歩また一歩と社会が暗さを増していく「撤退の時代」だとの強い危機感が彼らにはある。新型コロナウイルスの感染拡大はもちろんのこと、毎年のように起こる水害や台風の被害、そして検事長定年延長問題や日本学術会議への人事的介入。あまりにも言葉が軽んじられる風潮のなかで、民俗学者は無力感を吐露し、歴史学者は怒りにうちふるえる。それでもなお言葉の力を信じるのか。
だが書簡という形式が彼らを導いたのは、絶望のうちに塞ぎ込むことでも、敵を定めて拳を突き上げることでもなかった。防衛も攻撃も、身は固い。他方で彼らが行ったのは、「言葉をもみほぐす」ことだった。つまり徹底的に柔らかくなること、形を失(な)くすこと、ぐずぐずになることであった。抽象に傾きがちな言葉を、地上や地中に存在する無数の物や生き物という具体物に食(は)ませ、そうすることによって凝り固まった人の内…
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