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在京オケ4月の演奏会から~③読響・日本フィル

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日本フィルと行われた小林研一郎の傘寿記念公演より=写真は4月13日公演 (C)Rikimaru Hotta
日本フィルと行われた小林研一郎の傘寿記念公演より=写真は4月13日公演 (C)Rikimaru Hotta

 4月の在京オーケストラのレビュー最終回はシンガポール出身の注目株カーチュン・ウォンが指揮台に立った読売日本交響楽団の定期演奏会(6日)と、炎のマエストロ小林研一郎の傘寿(80歳)記念として企画された日本フィルハーモニー交響楽団とのチャイコフスキー交響曲ツィクルスの初日(7日)について報告する。

(宮嶋 極)

【カーチュン・ウォン指揮 読売日本交響楽団定期演奏会】

 桂冠指揮者のシルヴァン・カンブルランが振る予定の公演であったが、残念ながら来日が実現せず、代わって2016年のマーラー国際指揮者コンクールで優勝し注目を集めるシンガポール出身の俊英カーチュン・ウォンが指揮台に立った。これに伴い細川俊夫の「冥想」とデュティユーのヴァイオリン協奏曲以外の曲目が変更され、後半にマーラーの作品から若き日に書かれた交響詩「葬礼」と最晩年の交響曲第10番からアダージョが演奏された。

 ウォンはこれまでも日本のオーケストラに客演し一定の評価を得ており国内の注目度は高まっている。昨年12月に仙台フィルに客演時の模様を当サイト、アンコールのコーナーに正木裕美さんがレビューをアップしているのでご参照いただきたい。

https://mainichi.jp/articles/20201224/org/00m/200/001000d

読響の4月定期公演ではカーチュン・ウォンが客演し、ソリストは諏訪内晶子(ヴァイオリン)が務めた (C)読売日本交響楽団
読響の4月定期公演ではカーチュン・ウォンが客演し、ソリストは諏訪内晶子(ヴァイオリン)が務めた (C)読売日本交響楽団

 読響との共演では自分の内なる音楽を伸び伸びと表現しようとの意欲が横溢(おういつ)しているように感じた。

 細川の「冥想」は副題にある通り東日本大震災の津波犠牲者への祈りがテーマとなっており、2015年にハンブルクで初演されたオペラ「海、静かな海」の〝序章〟的な意味合いを持つ。大地の鼓動に耳を澄ますような〝静〟と津波の激烈さを表す動的な部分が鮮烈な対照をなし、犠牲者への祈りで静かに締めくくられるという構成。読響の精緻な合奏力によってこうしたコントラストが明瞭に表現されていた。客席には細川の姿もあり終演後、盛んな喝采を浴びていた。今回、カンブルランによる選曲であったが、海外における細川に対する高い評価と、日本国内でのそれには少し開きがあるように筆者は常々感じている。国内でも作品に触れる機会がもっと増えてほしいものである。

 デュティユーのヴァイオリン協奏曲は響きの変化が面白い作品だが、諏訪内晶子の緻密でシャープなソロがオケ全体をリードするような格好でなかなかの聴き応えに仕上がっていた。

 後半のマーラー2曲は続けて演奏されたが、ウォンは自分のやりたい音楽のイメージを具体的に持っていてそれが伝わってくる作りであり、オケに対するさばきもうまい。マーラー独特の響きの構成を分解して提示するような解釈には賛否があるだろうが、オケは若い指揮者の熱意を受け止めて、その意図を具現化してあげようとの雰囲気が伝わってきた。終演後、喝采は鳴りやまずウォンがステージに再登場していた。弦楽器の編成は14型、コンサートマスターは小森谷巧が務めた。

【小林研一郎指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 チャイコフスキー交響曲ツィクルス初日】

 取材したのはツィクルス初日となる7日に行われた第1番と第4番の公演。当初は27日に予定されていた3番、6番の回に加えて25日の小林の読響客演も合わせてリポートを計画していた。3度目の緊急事態宣言などによりこれらは中止となったが、ツィクルスについては一応延期と発表されているので今回は〝途中経過〟の形で7日についてのみ、その模様を報告したい。

 このツィクルス、本来であれば満80歳の昨年、開催されるはずであったがコロナ禍によって延期され、マエストロが81歳となる今年、仕切り直しで企画されたものであった。にもかかわらず今年も途中から再延期となり、せっかくのアニバーサリーを飾る企画なのに残念で仕方ない。しかし、小林自身はこうした事態もある程度想定していたようで、彼の終演後の恒例となっているマイクパフォーマンスで「こんなにたくさんのお客さまに驚いています。皆さん大丈夫ですか?」と客席に問いかけていた。

緊急事態宣言の発出で延期となった4月27日の公演が6月6日に開催されることが決まった。詳細は下部の公演情報を参照
緊急事態宣言の発出で延期となった4月27日の公演が6月6日に開催されることが決まった。詳細は下部の公演情報を参照

 かつて炎のマエストロと呼ばれ情熱あふれる演奏で人気を博した小林であるが、近年はひとつひとつの旋律、フレーズをいとおしむような丁寧な音楽作りが常となっている。この日のチャイコフスキーも勢いで押すのではなく、作曲家の思いをじっくりと歌い上げていくようにして大きなクライマックスを築き、聴衆の心を動かしていた。終演後の盛大な喝采に第4番4楽章のコーダをアンコールする予定外のサービスには聴衆の心に寄り添おうとする小林の音楽家としての姿勢が表れるように感じた。

 「そんなことはないかもしれませんが、10年後も(自分が)元気であったらこうした企画に挑んでみたい」との趣旨のことを語っていたが、健康を維持してぜひとも実現させてほしいものである。

 なお弦楽器の編成は16型、コンサートマスターは木野雅之が務めた。

公演データ

【読売日本交響楽団第607定期演奏会】

4月6日(火)19:00 サントリーホール

指揮:カーチュン・ウォン

ヴァイオリン:諏訪内 晶子

管弦楽:読売日本交響楽団

細川 俊夫:冥想―3月11日の津波の犠牲者に捧げる—

デュティユー:ヴァイオリン協奏曲「夢の樹」

マーラー:交響詩「葬礼」

マーラー:交響曲第10番嬰ヘ長調からアダージョ

【小林研一郎 傘寿記念&チャイコフスキー生誕180年記念 チャイコフスキー交響曲ツィクルス】

〇プログラムA 4月7日(水)19:00 サントリーホール

指揮:小林 研一郎

管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調Op.13「冬の日の幻想」、交響曲第4番ヘ短調Op.36

◆4月27日Cプログラム 振替公演◆

6月6日(日) 14:00開演

東京芸術劇場コンサートホール

チャイコフスキー: 交響曲第3番「ポーランド」、交響曲第6番「悲愴」

https://kobaken80thmusicfes.com

※チケット購入、5回券のチケット振替については必ず公式サイトでご確認下さい。

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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