フェイクを信じ、正しい情報に耳を塞ぐ 陰謀論者の思考とは/後編

新型コロナウイルスの存在を信じず、マスクやワクチン接種を拒否する人たちがいる。彼らの多くは米国や欧州から流入する陰謀論に影響されていた。人間はなぜ陰謀論にはまるのだろう。前編に引き続き、彼らの思考に分け入ってみる。【國枝すみれ/デジタル報道センター】
「科学者、メディアはわざと大騒ぎ」
「コロナなんてインフルエンザと同じだ」「死者数は水増しされている。病院はコロナ患者だというと割増金をもらえるから、別の死因なのにコロナだと報告しているのだ」。トランプ支持者が大半を占めるオハイオ州アシュランドでは、州政府がマスク着用を義務づけているのに、住民の多くがそう主張して着用を拒否していた。日本のワクチン反対派が言っていることと同じような理屈だ。彼らは老人介護施設でクラスターが起き、40人以上が感染しても行動を変えなかった。
トランプ前大統領の言動がそうさせた原因の一つだ。「コロナ、コロナ、コロナ。そればっかりだ。投票日が終わったら、それほど口にされなくなる」。そう演説するトランプ氏を見て、トランプ支持者たちは「科学者やメディアはわざと大騒ぎして経済を停滞させ、選挙でトランプの足を引っ張ろうとしている」と信じたのだ。トランプ氏がメディアや科学者を攻撃し続けたため、トランプ氏や共和党の支持者たちは正しい情報に耳を塞ぐようになっていた。
米調査会社ピュー・リサーチ・センターによれば、「新型コロナは公衆衛生を脅かす重要な問題だ」と考える割合は、共和党支持者(共和党寄りも含む)ではわずか41%で、民主党支持者の半分だ。ワクチン接種が進む米国だが、接種率を州別で比べると、共和党支持者が多い州は低い。トランプ氏の支持基盤である白人のキリスト教福音主義者に限ると、45%がワクチン接種に後ろ向きだ。
2020年6月時点で、米国の成人の71%が「コロナ感染拡大は権力者によって意図的に計画された」という陰謀論を聞いたことがあり、25%がそれを「確実に真実」「おそらく真実」と回答している。
「陰謀をたくらむのはエリート」
陰謀論の特徴は「すべての大事件は秘密裏に計画され、実行され、隠蔽(いんぺい)されている」と考える点だ。陰謀をたくらむのは大抵、既得権益を持つエリートという筋書きだ。一つの陰謀論を信じる人は他の陰謀論も信じる傾向が強い。
例えば、トランプ氏の選挙敗北を認めず、1月6日に米国の連邦議会議事堂に突入した「Qアノン」と呼ばれる陰謀論者たちの多くは主にこう信じていた。
●連邦政府の中にエリートによる影の国家(ディープステート)が存在し、共謀して政治を支配している。影の国家を倒すことができるのはトランプ氏だけで、トランプ氏と軍がいつか彼らを逮捕する。
●悪魔を崇拝する民主党の政治家やハリウッドのセレブらが子どもの人身売買ネットワークに関与している。
●大統領選の投票集計機がトランプ票をバイデン票に書き換える選挙不正が起きた。不正がなければ、トランプが勝利していた。
米国は相当深い病に侵されている、と思って帰国したら、日本でもトランプ氏の敗北を認めないトランプ支持者がデモしていた。「アメリカ大統領選の決着はまだついていない」「これは善と悪との戦いだ!」などのプラカードを持っている。彼らはジャパニーズなので、QアノンをもじってJアノンと呼ばれるらしい。
私は数百人のJアノンのデモと一緒に歩きながら、話を聞いた。多くが真面目で、「熱い人」たちだった。中国とメディアに対して強い敵意を持っていた。40代の男性は断言した。「毎日新聞をはじめ、(ネット以外の)オールドメディアはフェイクだ」。新聞記者は確認した事実を報道している。しかし、彼らは自分たちが「真実」と思うことを書かないという理由で、我々新聞記者を「フェイク」と呼ぶのだ。
「Jアノン」に怒鳴られた
デモで、後ろから女性に怒鳴られた。…
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