建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、病気になった元作業員らが起こした裁判で、最高裁が国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡した。
原告の大半が勝訴する内容だ。被害者は2万人に上るとも予想されている。判決を受けて与党側は和解案を示しており、幅広い救済につなげたい。
石綿は安価で耐火性に優れ、高度経済成長期から建材として広く使われた。一方で、粉じんを吸い込むと中皮腫や肺がんになる危険性が、当時から指摘されていた。
最高裁判決は、国が規制強化の必要性を認識しながら、防じんマスクの着用義務づけなど適切な対策を怠ったことは「著しく合理性を欠く」と指摘した。
「一人親方」と呼ばれる個人事業主についても、作業で石綿を扱うリスクは一般の労働者と変わらないとして、賠償の対象とした。
メーカーに対しては、建材に石綿の危険性を表示する義務を怠ったと認定した。製品が被害の原因となった可能性が高ければ、賠償責任を負うとの判断を示した。
国が石綿の使用を原則禁止したのは2000年代半ばになってからだ。欧米から大きく遅れ、その間に被害は拡大した。
一連の裁判で国は1、2審で敗訴を重ねたのに争い続けてきた。900人を超える原告側の元作業員のうち、7割が死亡している。
与党のプロジェクトチームは、国が係争中の原告に和解金を支払い、提訴していない被害者への給付金制度を設ける案をまとめた。原告側は受け入れを表明した。
ただ、この案はメーカーによる救済策に触れていない。どのメーカーの建材で被害が生じたか、特定が難しいことが背景にある。
しかし、広く流通させた責任がメーカー側にはある。建材に含まれる石綿の量に応じて、救済のための資金を拠出すべきだろう。
石綿の被害は「静かな時限爆弾」と呼ばれ、吸い込んでから数十年後に発症し、その時には重症化しているケースも多い。相談窓口や健康診断の充実が大切だ。
石綿を使った民間建築物は約280万棟と推計され、建て替えなどで28年ごろに解体のピークを迎える。新たな被害を生まないために安全対策の徹底も欠かせない。