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深い絆が生み出したロシアン・プログラムの名演~1年2カ月ぶりラザレフ&日フィル

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海外からの厳しい来日規制が続く中、14日間の待機期間を経てリハーサルと2日間の定期公演に挑んだラザレフ (C)山口敦
海外からの厳しい来日規制が続く中、14日間の待機期間を経てリハーサルと2日間の定期公演に挑んだラザレフ (C)山口敦

 コロナ禍の合間を縫って聴ける国内のオーケストラ公演で、時折ひときわ強い印象を残すのは、シェフの外国人指揮者との久々の顔合わせがもたらす「再会の喜び」と、ポストをもつゆえの強固な一体感だ。ロシアの名匠アレクサンドル・ラザレフを桂冠指揮者兼芸術顧問にいただく日本フィルの4月定期は、その典型だった。指揮台に立つ人間が変わると、ここまで音が変わるのか、というシンプルな驚きで満たされた(4月23日、サントリーホール)。

 ラザレフの日フィル登場は1年2カ月ぶり。感染防止の規則に従って、入国後14日間の隔離を受け入れ、満を持してサントリーホールの指揮台に現れた。かっぷくの良い豪放なスタイルや、楽員を指して客席に拍手を促す熱血ぶりは変わらず、ひと安心させた。

 折しも、3度目の緊急事態宣言の発令が直後に迫るギリギリのタイミングでの開催、という切迫した情勢も重なって、楽員のモチベーションはいや応なしに高まり、いつになく目のつんだダイナミックなアンサンブルで魅了した。

 プログラムは、すべてラザレフが得意なロシアもので、前半がグラズノフの交響曲第7番「田園」、後半がストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」と、オーケストラの機能と底力が全開になる組み合わせとなった。

 ラザレフはすでに日フィルとグラズノフの交響曲を四つ、取り上げてきた。緊張感あるリハーサルの成果だろう、今回の日フィルの状態はどうかな、と試すような気分は、アレグロ・モデラートの第1楽章が始まってすぐ霧消した。首席オーボエ奏者の杉原由希子をはじめとする木管セクションが軽やかに絡む愛らしい主題はソリスティックな安定度が高く、膨れ上がるトゥッティに至るまでの合奏はきめ細かく密度が濃い。ラザレフは自信満々にオーケストラをドライブし、ベートーヴェンの「田園」から着想を得たとされる心安らぐ自然賛歌を、朗々と歌いあげていく。楽団側も慣れない作品ゆえの集中力がプラスに働いて、全体が引き締まった。

 第3楽章、アレグロ・ジョコーソの華やかなスケルツォや、ロシア的な熱っぽいクライマックスを築くアレグロ・マエストーソの終楽章では、ラザレフ持ち前の力強いリードが爆発して、カロリーの高い壮大な響きが会場を覆いつくした。やはりこの手の作品を演奏させたら、ラザレフ&日フィルの充実度は際立つ。

楽団員の笑顔と拍手からも公演の充実ぶりがうかがえる (C)山口敦
楽団員の笑顔と拍手からも公演の充実ぶりがうかがえる (C)山口敦

 いっぽう、後半の「ペトルーシュカ」は同じ3管編成の1947年版でも、最後のエンディングが短縮されて華やかに終わるコンサート・バージョンが採用された。ラザレフはこの形を好んでいるようで、以前、別のオーケストラでも聴いた記憶がある。

 ここでも指揮者は、冒頭からぐいぐい楽団を引っ張り、勢いよくロシア風の土俗的なエネルギーや野趣が飛びだしていく。オーケストラも曲がグラズノフより手の内に入っており、豪快なタクトによく反応してカラフルな音絵巻を表出した。第1場でフルートが無伴奏のソロをとる場面では、指揮者が楽しそうにタクトをやめて首席奏者の真鍋恵子にゆだねるなど、楽団との親密さをしのばせた。

 第4場「謝肉祭の市場」の終結まで、一気呵成(かせい)になだれこむ奔放な流れは圧倒的だった。そのぶん、若干残ったやや楽天的な部分や細部の粗さは、2日目の24日公演では完成の域に達したことだろう。

 いずれにしろ、コロナ禍の特異な状況をむしろ味方につけて、特筆すべき名演に昇華させたラザレフと日フィルの奮闘ぶりは、両者の深い絆を改めて想い起こさせた。

公演データ

【日本フィルハーモニー交響楽団 第729回東京定期演奏会】

4月23日(金)、24日(土)サントリーホール

指揮:アレクサンドル・ラザレフ

管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

グラズノフ:交響曲第7番「田園」へ長調Op.77

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)

筆者プロフィル

 深瀬 満(ふかせ みちる) 音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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