「障害者は戦力」 企業と橋渡し 特性に応じた環境整備目指す

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障害者雇用コンサルタント会社「CtoB」代表取締役、熊内弘次さん=神戸市東灘区で2021年5月6日午後2時3分、桜井由紀治撮影 拡大
障害者雇用コンサルタント会社「CtoB」代表取締役、熊内弘次さん=神戸市東灘区で2021年5月6日午後2時3分、桜井由紀治撮影

 多様な人材が活躍する共生社会の実現が叫ばれて久しい。だが、障害のある人たちの働く場はなかなか広がらない。障害者雇用コンサルタント会社「CtoB」(神戸市東灘区)の代表取締役、熊内弘次さん(63)は「特性に応じた職場環境を整えれば、障害者は重要な戦力になる」と力を込める。【まとめ・桜井由紀治】

数合わせとしか考えない企業が多い

 障害者雇用に対して企業の取り組みはまだ鈍いのが現状です。潜在能力は高いのに、働けていない障害者が多数います。

 企業などに一定割合の障害者を雇うよう義務付ける法定雇用率があります。私は障害者と企業の橋渡し役をしていますが、ある企業から「雇用率の達成まで2人足りないから、手配して」との依頼がありました。商品発注と勘違いしているかのような依頼で、私は断りました。障害者を雇用率の数合わせとしか考えない企業が多すぎます。

 障害者は障害特性にマッチングさえできれば、大きな戦力となります。私には28歳になる重度知的障害の娘がいます。娘の介護を通してさまざまな障害者と出会いました。実感したのは、彼らの潜在能力の高さです。

 執行役員で退職した前職の阪急阪神ホテルズ事業部長時代、製菓工場に初めて障害者5人を雇用しました。集中力が途切れない、こだわりが強いため検品精度も高く、特性を生かした仕事ぶりでした。他のスタッフも彼らに引っ張られ、生産性が上がりました。障害者と一緒に働くことは企業にもメリットが多いと確信した私は、これを広めたいと起業しました。

 企業には、障害者を重要な戦力として捉えた経営戦略化を提案しております。障害者ができる仕事は彼らに任せ、一般社員はステップアップした仕事に従事することで、経営効率化を図ります。

 重視したいのは、障害者の能力を引き出せる環境作りです。その手法として、社内横断的なプロジェクトチーム(PT)を結成します。

 PTの構成メンバーは、部門長や実務に精通した社員のほか、社内の障害当事者や家族に障害者がいる社員も加えます。理解を深めるセミナーも開き、心のバリアフリーを図っていきます。

職場に起きる「化学反応」

 PTは障害者が担当する業務を各部署から切り出し、マニュアルも作ります。配属先の部署には、障害の特性を説明して配慮するよう求めます。

 採用して障害者と仕事をすると、職場に「化学反応」が起きます。まず、全員で支え合おうという気持ちが湧いてきます。真面目にコツコツ仕事をする彼らを見て、一般社員も働く意義を再認識します。一般社員の負担が軽くなったことで、新たに何をすべきか考え始めます。社内異動も活発化して、社員のモチベーションも上がります。

 私が関わった企業の成功事例を紹介します。「リーガロイヤルホテル」(大阪市北区)は2016年7月にプロジェクトを開始、障害者17人を新たに採用しました。雇用率は2・97%です。

 自閉症スペクトラムの男性はこだわりが強く、掃除を完璧にこなさないと、気が済まない。床をピカピカに磨く彼を見て、一般社員も懸命に磨くようになりました。まさに化学反応です。この男性は、夜勤明けの社員2人が残業で行っていた客室アメニティーの搬送も1人で担っています。彼は契約社員に登用されました。同ホテルは、日本ホテル協会の20年第1回社会貢献表彰優秀賞を受賞しました。

 「京阪ホテルズ&リゾーツ」(京都市)は18年9月にプロジェクトを開始、新たに12人を採用しています。雇用率は3・2%です。系列の「琵琶湖ホテル」(大津市)では、自閉症スペクトラムの女性が、これまで社員で分担していたテーブルナプキン折りを一手に引き受けています。彼女のおかげで社員の残業削減にもつながりました。

 聴覚障害の女性はパソコンが得意で、ホームページのメンテナンスやチラシを作っています。彼女の採用をきっかけに、社員の間で手話教室が自主的に開かれるようになりました。「京阪ホテルズ」は20年3月、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれました。

新たな職域にチャレンジ

 ただ、今は新型コロナウイルスの影響で、障害者の仕事も少なくなってしまいました。新規採用はストップ、雇用を守ることで精いっぱいです。

 そんな中、障害者が新たな職域にチャレンジする取り組みも始まっています。なかなか踏み込めなかったのですが、コロナ禍を機に「この仕事もできるんじゃないか」と、かじを切りました。障害者の可能性を信じているからできることです。

 コロナ禍が過ぎ去ると、再び深刻な人手不足がやって来ます。障害者雇用を経営戦略に組み込むか否かで、企業の成長に差がつくことでしょう。

法定雇用率

 障害者雇用促進法は、職場で働く人の一定割合以上を障害者とすることを義務付けており、この割合を法定雇用率と呼ぶ。民間企業の法定雇用率は2021年3月、2・2%から2・3%に引き上げられた。達成できていない企業は納付金を払うが、20年6月時点で達成企業は48・6%で、全体の半分に満たない。

CtoB

 2015年4月設立。問い合わせはホームページ(https://www.ctob.jp)へ。

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