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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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奈良や平安時代の高僧に由来する開湯伝説が…

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 奈良や平安時代の高僧に由来する開湯(かいとう)伝説が残る温泉は多い。空海(くうかい)(弘法大師(こうぼうだいし))と並んで名が挙がるのが行基(ぎょうき)だ。東大寺の大仏造立に貢献し、菩薩(ぼさつ)と呼ばれた。山代(やましろ)温泉(石川県)は行基が水たまりで羽の傷を癒やすカラスを見つけたことが起源という▲満濃池(まんのういけ)(香川県)の改修を行った空海と同様に、行基も社会事業に取り組んだ。今昔(こんじゃく)物語は「悪(あ)しき所をば道を造り、深き河には橋を亘(わた)し給(たま)いけり」と伝える。高度な知識を学び、土木、建設技術にも通じていた高僧への畏敬(いけい)の念が、伝説に反映しているのだろう▲行基は近畿を中心に貧民救済や治水も行い、多くの民衆の支持を集めた。一時は危険視されて弾圧されたが布教をやめず、朝廷も融和策に転じた。大仏造立の勧進(かんじん)(寄付集め)を担当した行基は最高位の大僧正(だいそうじょう)に上り詰めた▲奈良市の行基ゆかりの寺院跡で類例のない円形建物の跡が発見された。まんじゅう形のインドの仏塔ストゥーパの影響を指摘する専門家もいる。大仏開眼の儀式にはインド僧も招かれていたから、ありえないことではあるまい▲遺跡は大仏殿をのぞむ場所にある。大仏の完成を見ずに亡くなった行基を弔うために弟子たちが建てた供養塔という見方も有力だ▲大仏造立の前には疫病の流行で多くの死者が出た。大仏を拝む人々は疫病退散の願いも込めていただろう。東大寺では今月末まで大仏殿からのネット中継を続けている。行基をしのび、コロナ禍の早期収束を祈って「リモート参拝」はどうか。

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