- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
鉄道運賃を時間帯によって変動させる仕組みの導入を政府が検討している。「ダイナミックプライシング」と呼ばれ、航空運賃や宿泊料金では普及している手法だ。
朝夕のラッシュ時に値上げしたり、乗客が少ない日中に値下げしたりして、混雑を緩和する効果を見込む。新型コロナウイルスの感染拡大で関心が高まった。
コロナ禍で需要が低迷する鉄道会社には、財務改善につなげる狙いがある。乗客のピークを想定して配備している車両や人員を減らし、コストを圧縮できるからだ。
JR東日本、西日本は、通勤定期への適用を想定している。ただ、通勤は旅行などと異なり、いつ乗るか選択する余地が少ない。きめ細かい議論が求められる。
テレワークや時短勤務を導入する企業が増えているとはいえ、顧客や取引先との関係から出勤時間を変えられない働き手は多い。
非正規社員の中には、交通費を自己負担しているケースもある。しわ寄せを受ける利用者への配慮が欠かせない。
難しいのは値段の設定だ。ラッシュ時の値上げ幅が小さければ、混雑緩和の効果は限られる。高額だと、その時間帯しか利用できない乗客の不公平感が強まる。
鉄道運賃は、運行コストに一定の利潤を上乗せして決める仕組みだ。事業者の申請に基づき国が認可する。
事業者が需要見通しの精度を高め、妥当なコストを算出することが前提となる。利用者の負担が過剰にならないよう、国は厳格に審査しなければならない。
需要を分散させる対策として、ラッシュ時を外して乗降する通勤客にポイントを付与する取り組みを、JR東日本などが始めた。
こうした取り組みの分析や、企業へのアンケート調査といったデータを積み重ね、運賃の適正水準を検討してもらいたい。
今後は、ITを活用して最適な料金や交通手段を提案する移動サービスが本格化しそうだ。そうしたビジネスを展開する上でも、柔軟な料金体系は必要だ。
とはいえ、事業者の収益改善にばかり軸足を置くようでは理解を得られまい。運賃見直しの議論には、利用者本位の姿勢を徹底することが不可欠だ。