電動車椅子から自立訴えた46歳 事故で急死、仲間「遺志は必ず」

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後郷法文さん=NPO法人「自立生活センター ぶるーむ」提供 拡大
後郷法文さん=NPO法人「自立生活センター ぶるーむ」提供

 北九州市で2月、電動車椅子の男性が車にはねられ死亡した。後郷法文(ごごうのりふみ)さん(当時46歳)。四肢まひの重い障害を抱えた生活の中、「障害者の自立」を訴え、障害への理解を促進するため企業や学校での講演に奔走していた。突然の別れから約3カ月。仲間たちは遺志を継ごうと歩み始めている。

 事故は2月26日午前10時35分ごろ、小倉北区白銀の国道3号交差点で起きた。電動車椅子で横断歩道を渡っていた後郷さんは、赤信号を無視したとみられるバンにはねられ、同日中に亡くなった。現場は、後郷さんが代表を務めていたNPO法人「自立生活センター ぶるーむ」の事務所近くだった。「いつも最後まで残って仕事をしていた。その日も若い障害者の相談を受ける予定で(午前)11時に事務所で会うはずだった」。ぶるーむのメンバー、田中雄平さん(48)は無念そうに語る。

 田中さんによると後郷さんは高校時代、プールの飛び込み時に頸椎(けいつい)を損傷。下半身の感覚を失うなど首から下に重い障害を負った。それでも前向きに生きる姿勢を失わなかった。北九州市立大学法学部に進学後は司法試験に挑戦。合格はかなわなかったが、補助具を付けた手で文字を書き、筆記試験を受け続けた。

 大学の先輩で、在学中に後郷さんと知り合った田中さんも、生まれつきの病気で筋力低下などが進む重い障害がある。「重い障害があっても地域で暮らせる社会をつくる」ことを目指して2007年、ぶるーむを設立し、後郷さんを活動に誘った。田中さんが心身の調子を崩して代表を退いた14年、後任を快く引き受けたという。

 13年の障害者総合支援法施行で、障害者の暮らしを支える制度は重い障害がある人の訪問介護サービスも拡充された。そんな中で後郷さんは「障害者の自立」のあり方を考え、現状の見直しにも踏み込んだ。その一つが、ぶるーむのヘルパー派遣事業だ。従来は障害者1人を複数のヘルパーが交代で介助していたが、1対1の専属型に変更。内容も「利用者の指示のない介助はしない」と、当事者の主体性を重んじた。

 従来の支援に慣れた利用者の一部は反発して利用をやめた。専属の介助者を確保すると人件費も増えるため、ぶるーむの運営にも影響した。それでも「ヘルパーにお世話される意識では本当の平等にはならない」と譲らなかった。

後郷法文さんの大学時代からの友人で、NPO法人「自立生活センター ぶるーむ」でともに活動した田中雄平さん。事務所内の後郷さんの席付近には写真や好物が置かれていた=北九州市小倉北区で2021年4月21日、青木絵美撮影 拡大
後郷法文さんの大学時代からの友人で、NPO法人「自立生活センター ぶるーむ」でともに活動した田中雄平さん。事務所内の後郷さんの席付近には写真や好物が置かれていた=北九州市小倉北区で2021年4月21日、青木絵美撮影

 「『自立生活』とは、頑張ってなんでも自分ですることではなく、必要な支援を受けながら社会の中で役割を果たしていくこと」。代表のあいさつ文にそう記した後郷さん。一般社団法人「生き方のデザイン研究所」(北九州市)では、障害に対する理解を広げようと、企業や学校の研修を精力的に引き受けた。遠山昌子・代表理事によると「学校の授業用のシナリオは後郷さんが書き、視覚や聴覚など障害種別を問わず当事者が生活で感じた困りごとを盛り込んでいて、子どもたちの反応も良かった」と振り返る。

 全国100以上ある自立生活センターで構成する協議会では常任委員を務め、センター空白県だった長崎や佐賀で団体の新設を後押し。運営の助言にもあたった。同じ常任委員で、生前交流のあった井谷重人さん(42)=松山市=は「社会を本当に良くしようという気で発言、行動していて、見習うところがたくさんあった」と惜しむ。コロナ下の葬儀は、田中さんら一部の参列に限られたが、活動を共にした全国の仲間から花が届き、「すごい活動をしていたんだ」と後郷さんの両親を驚かせた。

 4月中旬、ぶるーむの臨時総会で田中さんは後任の代表になった。後郷さんが特別支援学校高等部の生徒向けに、5年ほど続けてきた講話は今年度も続ける。「障害があってもたくさんのすばらしい面が自分にあることに気づいて」。代表あいさつ文に、こうもつづっていた後郷さんの思いを、田中さんは生徒たちに伝える覚悟だ。

とっさの回避困難「交通弱者に配慮を」

 警察庁のまとめによると、電動車椅子を利用中に、過失が小さく主に被害者とされる「第2当事者」または「第3当事者」として事故に遭い、死亡した人は2011~15年の5年間で32人だった。

 電動車椅子は道路交通法で歩行者に位置づけられている。ただ、歩行者や自転車に比べると高さが低く、見落とされる恐れがある。内閣府令で最高速度は時速6キロと定められているため、とっさに危険を回避するのも難しいとされる。

 「電動車いす安全普及協会」(浜松市)によると、電動車椅子の国内出荷台数は、19年度は2万6817台。運転免許を返納する高齢者の増加などを背景に近年は増え続けている。協会の担当者は「一般的な交通ルールを守り、車椅子が見えたら速度を落とすなど、交通弱者に配慮を」と呼びかけている。【青木絵美、成松秋穂】

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