オリジナルブックカバーで集客 大阪の書店挑戦 他店とも「協業」
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クリームソーダ、アイスバー、焼き芋、フランスパン、オルガン、富士山。大阪市鶴見区の「正和(せいわ)堂(どう)書店」が店頭で文庫本の購入者に無料で配っているオリジナルブックカバーが人気だ。出版不況や書籍通販の台頭で書店経営の厳しさが続く中、このオリジナルカバーをアイテムに全国の店と手をつなぐ試みも始まった。書店間の「競争」ではなく「協業」を目指している。
創業者の孫が経験生かし
1970年に創業し約10万冊を扱う同店でブックカバーを作っているのは、創業者の孫、小西康裕さん(34)。印刷会社勤務だが、2017年から週末に家業を手伝う。「書籍は毎日約200冊発刊されている。存在を知られないまま埋もれる本を少なくしたい」と、写真共有アプリ「インスタグラム」や「ツイッター」などのSNSで本の紹介をスタート。フォロワー数は順調に増えていったが、来店には結びつかない。大学で版画やデザインを学んだ経験を生かしてオリジナルのブックカバーを作り、店頭で渡すことで集客しようと考えたのが始まりだ。
来店者が増加、インバウンドも
町の景色やインテリアを参考にアイデアを練り上げ、17年夏、アイスバーをイメージしたブックカバーを完成させた。店頭やSNSで紹介すると、目に見えて来店者が増加。「本を読むのが楽しくなった」と好評で認知度も一気に高まり、北海道やインドネシア・バリ島など国内外の遠方からも客が訪れるようになった。旅行カバンを抱えたまま空港から直接来店する人やインバウンド(訪日外国人)客も。また、それまではほとんどが男性客だったが、女性客も増えたという。
カバーはすぐ在庫切れになるため、今は1デザインにつき2000枚をまとめて発注する。デザインは現在10種類で季節ごとに新作を追加。人気は棒の部分がしおりになったアイスバーや、アイスクリーム部分がしおりのクリームソーダという。店頭でデザイン選びに迷う客が多いため、今は文庫本購入1冊につき1枚ずつ選べるようにしている。
CF駆使し全国の他書店に提供へ
だが、新型コロナウイルスの感染拡大により希望者の来店は難しくなった。コロナ禍で「ステイホーム」が呼びかけられたことや、緊急事態宣言時に行き場を失った人の来店もあって店の売り上げは微増したものの、全国の他の店と共に経営環境は依然として厳しい。ブックカバーを希望者に届け、他の書店も応援したい。この二つの目的のため、思いついたのがオリジナルカバーを全国の店に提供することだった。
提供するカバーのデザインは人気が高いアイスバー。6図柄を用意し、科学者、アイザック・ニュートンが手紙に書いた「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです」の一節をイメージしたロゴもつけた。クラウドファンディング(CF)で100万円を目標に資金を募ると、期限の5月23日までに144万6500円が集まった。同21日時点で関西や東北、九州、沖縄など約170店への提供が決まっており、8月1日から配布する予定だ。さらに約50店が調整中という。
出版不況で全国の書店数は減少の一途。娯楽の多様化と、スマートフォンなどで電子書籍を手にしやすくなったことも大きく影響している。正和堂書店も苦戦し、一時期は本店以外に2店舗を構えたが今は本店のみとなった。「(チェーンではない)独立店や、1店舗だけで販売促進を講じるのは資金的に難しい。まずは本を読んでもらうこと、次に書店の認知度向上、そして集客促進といったマーケティングが必要」と小西さんは語る。
「ニュートンの言葉は、本を読んで考えることは著者の膨大な知識・経験が凝縮されたもの(巨人)を体験し、新しい発見を得ることだと示しているように感じる。書店は巨人の肩に乗れる場所だと思う」。CFの紹介文に小西さんはそう記した。来店者数を増やして書店を継続したいという思いが形になったブックカバーだが、今後は本にカバーをつける習慣がない海外にも広め、本や書店の魅力を長く伝えていきたいと考えている。【菅沼舞】
国内の書店数は20年前から半減
文化通信社によると、日本の書店数は2020年5月1日現在で1万1024店で、20年前の2万1654店からほぼ半減。書店調査会社のアルメディアのデータでは、売り場面積のある店舗に限ると9762店で、右肩下がりの一途をたどっている。
出版科学研究所の調べでは、20年の紙の出版物(書籍と雑誌の合計)の推定販売金額は1兆2237億円で、16年連続で前年割れした。ただ、漫画「鬼滅の刃(やいば)」の大ヒット効果などで減少幅は前年比1・0%にとどまった。電子出版市場は好調で、出版市場全体における占有率は24・3%。紙と電子を合わせた販売金額は4・8%増の1兆6168億円だった。