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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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米ニューヨーク州生まれの少年は…

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 米ニューヨーク州生まれの少年は6歳で父母の生まれ故郷のドイツに移住した。まもなく第二次大戦が始まる。少年は「みんな後悔した」「戦争中は色がなかった。全ては灰色と茶色だった」と振り返っている▲91歳で死去した世界的な絵本作家、エリック・カールさんだ。戦後、美術大学を卒業し再び米国に渡った。色を塗った紙をコラージュして作る絵本の鮮やかな色づかいには、戦時中に体験した「色のない」生活の影響もあったのだろう▲代表作「はらぺこあおむし」(1969年)は世界各地で読み続けられている。短い物語にも含蓄がある。何を食べてもはらぺこの青虫が最後に食べて大きくなる緑の葉は、最初に卵が産み付けられた葉と同じだ。「一度も登場しない母の愛が作品の根底にあります」。訳者のもりひさしさんが小紙に語っている▲日本とも縁が深い。青虫が食べた跡に本当の穴を開けた本の印刷は日本の会社が請け負った。米マサチューセッツ州のエリック・カール美術館は訪日時に立ち寄った絵本の美術館にヒントを得て創設したという▲昨春、新型コロナウイルスの感染が広がった際にはツイッターに「友よ安全に」「お互いに優しく。地球にも」と書き込んだ。遺族によれば、心優しい「虹の画家」は月の光の中で星をつかみ、夜空を旅しているそうだ▲コロナ禍で児童書の売り上げが伸びているという。良質の絵本は子どもに読み聞かせる大人の心も癒やしてくれる。懐かしい絵を眺めるだけでも心がほぐれる。

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