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緊急事態宣言の再延長 五輪優先の解除許されぬ

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 新型コロナウイルス対策のため9都道府県に発令されている緊急事態宣言を延長することが決まった。東京都や大阪府などは再延長となる。今月末の期限を6月20日に延ばす。

 延長期間中の感染対策が奏功するかどうかは、夏に予定されている東京オリンピック・パラリンピックの開催をめぐる判断に大きく影響する。

 4月の宣言発令から1カ月以上たつが、1日当たりの新規感染者数はいまだ高水準の地域が多い。減少傾向がみられる東京や大阪でも「ステージ4(感染爆発)」相当を抜け出せていない。

 病床の逼迫(ひっぱく)も続いている。大阪では、入院できずに、自宅や高齢者施設などで亡くなる患者も相次いだ。

 菅義偉首相が感染対策の「切り札」と位置付けるワクチン接種は緒に就いたばかりだ。延長に追い込まれた首相の責任は重い。

失敗繰り返さないよう

 冬の第3波では、感染者数が十分に下がらない段階で宣言を解除した結果、再拡大を招いた。同じ失敗を繰り返してはならない。

 今回は感染力の強い英国由来の変異株が主流だ。人出が減っても新規感染者数が減少するまで、以前より時間がかかる。効果的な対策を講じなければならない。

 事業者が休業要請などに応じない場合、知事が命令を出すなど対応を強化するという。飲食店などの経営はいっそう厳しくなる。政府は十分に支援することが求められる。

 宣言の解除基準を明確に打ち出すことも必要だ。政府は感染状況が「ステージ3(感染急増)」相当となることを前提に「総合的に判断する」という。だが、専門家の中には、「ステージ2(感染漸増)」まで下げるべきだとの意見がある。

 ゴールデンウイーク後、人出が増えている地域もある。解除基準を明確化することで、事業者や国民の協力を引き続き得る努力をしなければならない。

 危惧されるのは、英国株よりさらに感染力が強いとされるインド由来の変異株が拡大することだ。検査体制の拡充で抑え込みを図ることが急務だ。

 第4波でとられた対策の効果を早急に検証して、今後に生かすことも欠かせない。

 宣言の期限は、五輪開会式まで約1カ月というタイミングだ。

 東京都医師会の尾崎治夫会長は、大会開催には、東京の新規感染者数をステージ2相当の「7日間平均で100人以下」にまで抑える必要があると主張している。

 大会組織委員会は、選手や関係者の感染対策を記したプレーブック(規則集)を公表した。しかし、人の流れを抑制する上でカギを握るのは、観客を受け入れるかどうかだ。海外からの観客は断念したが、国内の観客については決定を先送りしている。

リスク高い「観客あり」

 宣言地域では、プロ野球やサッカー・Jリーグなどの観客数の上限は、5000人か収容率50%の少ない方と定められている。

 これを根拠に、組織委内には観客を制限付きで入れることは可能だとの声がある。

 しかし、五輪は規模が異なる。今回は史上最多の33競技が行われ、東京の近隣県や東北、北海道も会場となっている。観客を入れれば、関係者以外にも多くの人が市中を移動し、各地で感染リスクが増す。

 感染対策上は、無観客が不可避のはずだが、それも打ち出せない迷走ぶりに国民の不安は募る一方だ。これで「安全・安心」な大会になるのか。

 無観客の場合、組織委が900億円と見込むチケット収入は失われる。それでも、人の流れの抑制や医療機関の負担軽減などメリットの方が大きい。

 大会期間中にはパブリックビューイングも計画されているが、大勢の人が集まるイベントは実施すべきではない。

 国際オリンピック委員会(IOC)の幹部からは「アルマゲドン(世界最終戦争)でもない限り実施できる」などと、国民感情を逆なでする無神経な発言が相次いでいる。

 政府の最大の責務は国民を守ることだ。菅首相は感染対策について「先頭に立って取り組む」と強調している。五輪の日程優先で宣言を解除するようなことがあってはならない。

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