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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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患者であふれる病院…

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 患者であふれる病院、深刻なワクチン不足、後手に回る行政。作家の篠田節子さんが20年以上も前、感染症の恐ろしさを描いた小説「夏の災厄」はコロナ禍を予言したと話題になった▲印象に残るのは地域社会の分断と疲弊だ。東京郊外の小都市で死者が相次ぐ。不安に駆られた住民の間でデマと差別が横行し、自殺も多発する。緊急事態宣言が長引く中、こうした混乱が現実に起きないよう取り組む人は各地にいるだろう▲東京・練馬でイタリア料理店を営む岩澤正和さん(41)は昨年の緊急事態の際、地域の中核病院にランチを無償で届け続けた。「最前線で闘う医療従事者の心が折れると、地域を支える人がいなくなる」と危機感を募らせた▲外出自粛で売り上げも減り、支援を続けるのは厳しかった。すると店のお客さんが寄付を集めてくれた。野菜を仕入れている地元の農家からは無料で次々と食材が寄せられた。ほかの飲食店も支援に加わった。「助けようと思って始めたのが、いつの間にか助けられていました」▲イタリアで修業し、ピザ職人の世界大会で優勝した実績がある。都心から離れた土地で店を構えたのは、農家が多く、「地産地消」によるつながりを実感できたからだ。病院支援で知り合った多くの人も店に通うようになり、売り上げも次第に回復してきた▲今準備しているのは、経済的に苦しい家庭の子どもなどに食事と交流の場を提供する子ども食堂だ。支え合いの大切さを教えてくれた地域への恩返しである。

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