小説「戦場レストラン」 作者がガザ人道支援で見たリアルとは

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2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の子どもたちと津高政志さん(左)=本人提供 拡大
2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の子どもたちと津高政志さん(左)=本人提供

 パレスチナやアフガニスタン、南スーダンで人道支援に携わってきた神奈川県在住の津高一風(いっぷう)(本名・政志)さん(37)が、かつての活動地を舞台に料理人の人生を描いた小説「戦場レストラン」を4月に個人出版した。このほどイスラエルとイスラム組織ハマスとの間で起きた戦闘に心を痛めながらも、作品を通して紛争地で暮らす人々に思いを巡らせてほしいと願う。

小説「戦場レストラン」の表紙 拡大
小説「戦場レストラン」の表紙

「終わりが見えない」中での頼もしさ

2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の子どもたちと津高政志さん(右奥)=本人提供 拡大
2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の子どもたちと津高政志さん(右奥)=本人提供

 ドン、ドン――。2010年にパレスチナ自治区ガザ地区に出張した時のこと。ある夜、ホテルの部屋でパソコン作業をしていた時、突然大きな音と地響きのような振動を感じた。続いて機関銃のような音が響く。驚いてホテルの従業員に尋ねると、落ち着いた様子で告げられた。「おそらく戦闘機だ。ここでは戦争は毎日毎晩のことさ」

 横浜市出身。オランダ・ハーグの大学院で開発学を学んだ後、09年7月~11年3月、日本国際ボランティアセンター(JVC、東京都台東区)のエルサレム事務所に勤務した。人道支援のためパレスチナ自治区のガザ地区を訪問する中で付近での空爆に遭遇し、危険と隣り合わせの日常を体感。繰り返される戦闘に「終わりが見えない」と悲観的な気持ちも抱いた。

2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の住民と津高政志さん(右)=本人提供 拡大
2010年ごろに栄養改善事業で知り合ったパレスチナ自治区ガザ地区の住民と津高政志さん(右)=本人提供

 ガザ地区では、地域の状況を把握するために家庭訪問や母親向けの調理実習などを行っていた。イスラエルによる封鎖が強化され、食料の入手さえも難しくなっていたガザで、子どもの栄養失調を防ぐ取り組みだった。ある時、活動を通じて親しくなった女性の言葉に感銘を受けた。「長い歴史を持つガザには、7度滅ぼされ、7度よみがえった不死鳥のような場所という伝説があるのよ」。戦乱の中でも歴史や文化を大切にし、教育熱心なガザの人たちのことを語る女性に頼もしささえ感じた。

 人々と接するうちに「自分の体験や感じたことを伝え、世界の窮状を訴えたい」と思うようになった。その後も13年からは国際機関の職員として、フィリピン▽アフガニスタン▽南スーダン▽ミャンマーの4カ国に駐在し、紛争の捕虜や民間人の保護、保健医療の支援などに従事し、ますます思いは強くなった。しかし、海外の任務で見聞きした詳細は守秘義務のため語ることができない。小説という形で伝えられないかと数年越しで構想を温め、20年3月の帰国後、神奈川県内の環境政策シンクタンクに勤務しながら書き上げた。

2016年、南スーダンのルンベクで同僚らと写真に納まる津高政志さん(前列右から3人目)=本人提供 拡大
2016年、南スーダンのルンベクで同僚らと写真に納まる津高政志さん(前列右から3人目)=本人提供

実体験に裏打ちされた物語

 主人公は戦地を渡り歩き、レストランを開業する料理人。食材調達が限られた環境で、地中海の漁師が命がけで捕らえた魚、市街地を巡り見つけたラム肉などを使って逸品を生み出そうと腕を振るう。人道支援の職員も登場し、医療や教育と地域が抱える問題も語られる。主人公は武装集団による略奪や友人の誘拐などに巻き込まれながらも、なぜ危険な場所で料理を振る舞うのか徐々に明らかになる。

 多くの人が興味を持ちやすい「食」をテーマにしながら、空爆に見舞われるガザ、飢餓状態の南スーダン、政情不安定なアフガニスタンなど各国で遭遇した出来事や人々とのやりとりを随所にちりばめた。

 小説というフィクションだが、実体験に裏打ちされた「リアル」な物語。津高さんは「死傷者や爆撃の数だけでは伝わらないことがある。物語を通じて見えない世界とのつながりを感じてもらえたらいい」と期待を込める。

 小説はインターネット通販サイト「アマゾン」で、電子書籍(Kindle版、1093円)か、注文に応じて製本する紙の書籍(オンデマンド版、2000円)を購入できる。【宮川佐知子】

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