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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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空のコップには水滴が何滴入るだろう?…

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 空(から)のコップには水滴が何滴入るだろう? 答えは1滴だけ。最初の1滴でコップは空でなくなる(のり・たまみ著「世界のなぞなぞ」)。ところでスポーツイベントは、時として空の器にたとえられることがある▲スポーツはもともと作られたルールの産物だから、勝敗に現実的意味があるわけではない。だが無意味――空だからこそ、そこには夢や栄光、感激や失意など人々が抱くあらゆる思いや物語を盛り込める。文明の偉大な発明である▲スポーツ、とくにファンが思い思いの物語を盛る器となるプロスポーツでは、勝敗にからむ人間ドラマが人気や資金を呼び込む決め手となる。試合後の選手にメディアへの対応が求められるのも空の容器を満たす素材がほしいからだ▲そんななか「選手の心の健康」を理由に、テニス全仏オープンでの記者会見の拒否を表明した大坂(おおさか)なおみ選手だった。だが全仏などテニス4大大会の主催者は、会見は選手の責務だと強調、拒否が続けば出場停止もあると警告した▲全仏1回戦での会見拒否には規定通り罰金が科され、コートでの取材には応じた大坂選手は「怒りは理解の欠如」と反論めいたツイートをした。ちなみに他の有力選手からは会見はプロ選手の仕事の一部と割り切る声が多く聞かれた▲メディアの一員としてもなかなかつらい会見拒否だが、心配なのは話がこじれて大会出場の機会が奪われることだ。図らずもプロスポーツという器に、その本質を照らす1滴を投じた大坂選手である。

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