2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標が法制化された。政権交代や経済情勢の変化があっても目標を後退させない歯止めとなる。
菅義偉首相が昨年10月、「50年排出ゼロ」を表明したことを受けて、地球温暖化対策推進法が改正された。
注目されるのは、再生可能エネルギーの導入を拡大するため、自治体の取り組みを進める施策が盛り込まれたことだ。
都道府県や政令市には実行計画に導入目標を明記することを義務付け、市町村には「促進区域」の設定を促す。促進区域で再生エネ事業を進める場合、環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを簡素化する。区域の設定や事業内容について、住民の意見を反映させることも求める。
近年、再生エネの導入に伴う景観悪化や騒音などを巡るトラブルが少なくない。このため、条例を作って導入を制限する自治体が増えている。
再生エネを拡大するには、地域へのメリットや環境への配慮についての丁寧な説明が欠かせない。
19年の台風15号によって千葉県内で大規模停電が起きた際には、太陽光発電を活用している施設が避難所として機能した。京都府宮津市では耕作放棄地にメガソーラー施設を造り、収益を地元に還元している。
各地の知恵を共有し、再生エネを地域の資源にしていく仕組みを作っていかなければならない。市町村や企業の取り組みを促すためにも、国は高い目標を掲げる必要がある。
政府は年内にエネルギー基本計画を改定する予定だ。現在の再生エネの目標は、30年度の電源構成で22~24%だが、思い切った引き上げが求められる。
「排出ゼロ」は、再生エネの拡大だけで実現するわけではない。石炭火力発電の削減や、炭素税をはじめとする「カーボンプライシング(炭素の価格付け)」など、あらゆる政策を講じることが不可欠だ。民間も排出量の少ない産業への構造転換を進めるべきだ。
今回の法改正を、官民が従来の発想を変え、脱炭素社会の実現に向けて力を結集するきっかけにしなければならない。