インド変異株で海運業に激震 「隠れた英雄」襲う入港拒否や命の選別

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東京・品川の高層ビルを背に東京湾に入る外航船=東京都内で2021年5月18日午後5時36分、中津川甫撮影
東京・品川の高層ビルを背に東京湾に入る外航船=東京都内で2021年5月18日午後5時36分、中津川甫撮影

 新型コロナウイルスの中で感染力が強いとされる「インド変異株」の拡大に、日本の海運業で危機感が広がっている。日本企業が国をまたいで運航する国際貨物船(外航船)の船員のうち9割以上は外国人。インドは全体の8%を占める人材供給国だからだ。国際海運の土台を支え「隠れた英雄」と呼ばれる外国人船員に今、何が起きているのか。【中津川甫/経済部】

韓国が入港拒んだ船からSOS

 記者がインド人船員をめぐる厳しい実態を知ったのは5月上旬。国土交通省幹部が漏らした「出発前のPCR検査を偽陰性ですり抜け、船内で陽性が確認されたインド人船員が出た」という一言がきっかけだった。

 幹部によると、日本企業が運航する外国船籍の外航船が韓国・釜山に寄港しようとした際、韓国側から検査を求められ、インド人船員が新型コロナに感染していることが判明。韓国当局に入港を拒否され、距離が近い日本に助けを求めてきたという。

 まずは、この外航船を探すことから取材を始めた。厚生労働省は全国の空港や港の検疫で確認された新型コロナ感染者の情報を毎日、ホームページで公表しているが、国籍などの詳細は明らかにしていない。

 そこで5月に韓国、九州の近海にいた船舶から救助要請が入ったことはないか、海上保安庁に問い合わせた。国交省幹部の話と合致したのは1件。5月2日夕、北九州市・門司港沖に停泊中の船から「船員1人の体調が良くない。下船させたい」と無線で連絡があったという事案だ。

 海保が現場に到着すると、体調不良を訴える船員が通報時より増えており、20~40代のインド人男性3人を北九州空港までヘリコプターで搬送した。同じ船から5月7日にも無線で追加の救助要請があり、巡視船で40代のインド人男性船員1人を門司港まで運んだといい、船内で感染が拡大した可能性もある。

 検疫関係者によると、搬送されたインド人船員4人は検疫で陽性と確認され、発熱やせきなどを訴えたことから「人道上の特別措置」として検疫所の判断で緊急上陸を許可。隔離を徹底した上で、近くの医療機関に入院させたという。4人ともインド変異株に感染していた。

「命に関わる。拒否できない」

 この船を運航していたのは、中国地方にある海運会社だ。インターネット検索で船の航行履歴が分かるサイトによると、鉱物や石炭、穀物といった貨物を梱包(こんぽう)せずに大量輸送する「ばら積み貨物船」で、公表された直近の動きでは4月26日に釜山付近にいた。海運会社の担当者は「経緯の詳しい説明やコメントは差し控えたい」としているが、韓国から入港を拒否されたのは、この時期とみられる。

 韓国が入港を拒んだ経緯は不明だが、日本は新型コロナ流行後も、外航船の寄港やインド人を含む外国人船員らの上陸を原則認めている。長期の航海となる外航船の場合、中継地の港での物資補給や船員交代が必須だからだ。日本近海で航行中、新型コロナに感染した疑いのある船員が見つかった場合でも、厚労省幹部は「命に関わる問題なので、どの国の船員であっても救助要請があれば拒否できない」と説明する。

外国人船員なしでは成り立たず

 実際、日本の海運業ではどれくらいの外国人船員が働いているのか。

 国交省と日本船主協会によると、日本企業が運航す…

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