新型コロナウイルス流行への対応で、公立病院が存在感を増している。多くの施設が患者を受け入れ、医療崩壊を食い止める防波堤となっている。
だが、公立病院は政府が進める統廃合方針の渦中にある。地域医療に果たしている役割を改めて見つめ直すべきだ。
コロナ禍では、発熱などがあっても患者が入院できないという病床不足が深刻化している。
背景には病院の「公・民」バランスがある。精神科病床などを除き日本の病院には約120万床あり、世界トップクラスだ。だが、民間病院が8割を占め、多くの病院は院内感染防止措置などが取れず、病床確保が困難だった。
そうした中で、公立など公的な病院は1月時点で8割程度がコロナ病床を用意し、患者受け入れの中核を担った。自治体と連携したり、財政支援を受けたりしやすい点もプラスに作用した。
だが、公立病院を取り巻く環境は厳しい。厚生労働省は一昨年秋、全国の公立病院などをふるいにかけ、424機関を再編や統廃合の検討対象とする「リスト」を地方の頭越しに公表した。その後、対象は436機関に増えている。
政府は医療費の抑制に向け、診療報酬が高い「急性期病床」の削減を目指している。赤字で自治体財政を圧迫するケースも多い公立病院は、民間に比べて標的にしやすい事情もあったようだ。
人口減少や超高齢化が進む中、病床数見直しや、公立病院の適正配置などの改革は必要だろう。
ただし、再編リストに挙がった約200機関が今回患者を受け入れた。国の再編押しつけは公立病院が担う緊急時の役割を軽視し、コスト偏重に走っていたと言わざるを得ない。
コロナ対応で明らかになった地域医療の脆弱(ぜいじゃく)さをまず十分に検証すべきだ。そのうえで「公・民」のバランスや、緊急時の対応能力も十分考慮し、自治体主導で医療圏を構想していく必要がある。
コロナ禍のあおりで、公立病院の統廃合作業は現在、一時的な凍結状態にある。
それでもほとぼりが冷めれば、再燃するのではないかとの懸念が地方には根強い。政府はまず、再編リストを白紙に戻すべきだ。