虐待、多重人格、母との絶縁…余命5カ月宣告の35歳男性が思うこと

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退院し、在宅療養に入った星田さん。寝そべっていると、いつの間にか子供たちが集まってくる。「こんな時間を大切にしたい」=東京都新宿区の自宅で2021年5月(本人提供)
退院し、在宅療養に入った星田さん。寝そべっていると、いつの間にか子供たちが集まってくる。「こんな時間を大切にしたい」=東京都新宿区の自宅で2021年5月(本人提供)

 重度の内臓疾患で一度は余命5カ月と宣告された35歳の男性が幼少期に受けた虐待の影響をSNSに投稿している。平手で殴られ、タンスに頭をぶつけた。階段から突き落とされた……。その後遺症から、いくつもの人格が現れる「解離性同一性障害」と診断され、両親とも疎遠になっていった。この男性は死を間近に感じる今、妻と1万人以上のフォロワーたちに背中を押され、封印してきた過去と向き合っている。そして、最後に伝えたい思いとは――。【生野由佳/デジタル報道センター】

 男性は東京都新宿区の星田雅治さん=仮名。「ホッシ~余生満喫中~」(@panda5959)というアカウント名でツイッターに投稿している。妻(34)と長女(4)、長男(9カ月)と4人で暮らす。これまで放送作家、フリーライター、国会議員の私設秘書などで経験を積み、複数の会社を起業した。まさに働き盛り。「ワーカホリック」を自負していた。

 ちょうどビリヤードのプロリーグを結成しようと動き始めたところだった。持病が再発し、重い内臓疾患が判明した。2020年12月16日に「余命5カ月」と宣告される。ツイッターでは最初、ビリヤード仲間たちに入院生活の様子を軽口を交えながら報告していた。転機は2月28日のツイートだった。

 <35歳の末期患者は『バズる』を経験したくなっちゃいました。愛する妻と可愛い子供達を残して旅立つ前に、ちょっとSNSにすり寄ってみました。だって面会もできなくて寂しいんですもの。1いいね=1日生き伸びれると自己暗示してやってみようと思います。お戯れにお付き合いください>

 星田さんは振り返る。「コロナ禍で大好きな妻にも子供たちにもほぼ会えず、治療は苦しい。看護師さんたちも忙しく、そんなにかまってはくれません。本当に何も楽しみがなかったのです」。高熱と嘔吐(おうと)で苦しんでいた深夜、そんなツイートを投稿した。そして翌朝、携帯を見て驚いた。

 900人余りだったフォロワーが一晩で1万人を超えていた。昨晩の投稿への「いいね」も1・1万を超えている。「妻に報告すると、『30年も生きられるね』と喜んでくれました」。見知らぬフォロワーたちからの「いいね」はその後も増え続け、28万超になっている。1いいね=1日で換算すると、770年以上、生き延びる計算になっていた。

 ツイッターに体調の悪化を投稿すると「頑張れ」と励ましてくれる人が大勢いた。症状が緩和したと報告すると、「よかったね」と一緒に喜んでくれる人もたくさんいた。

 「大勢のフォロワーの存在を身近に感じ、SNSは僕の新しい居場所になりました。妻の次に頼れる存在ですね」と星田さん。顔も名前も知らない多くの人たちとつながっている感覚。“インフルエンサー”となった星田さんは、これまで話せなかった虐待の傷をフォロワーたちに告白することにした。同じように苦しむ子供が一人でも減ってほしいという強い思いを込める。

 記憶を失ったり、別の人格が現れたりする「解離性同一性障害」(多重人格障害)と診断されていた。多重人格障害は「24人のビリー・ミリガン」や「ジキルとハイド」「ファイト・クラブ」で知られているが、当事者になった星田さんは首を振る。「映画や小説のようなオカルトな症状ではありませんが、僕に別の人格が現れ、時に奇行に走り、周囲に迷惑をかけてしまいます。その記憶は抜け落ちていることが多く、申し訳なくて、とてもつらいのです」

虐待を受けた記憶

 25歳の時に突然倒れた。…

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