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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「井水は河水を犯さず、河水は井水を犯さず」…

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 「井水(せいすい)は河水(かすい)を犯さず、河水は井水を犯さず」。32年前の天安門事件後、中国共産党総書記に就任した江沢民氏は香港の行方を懸念する英国の特使にこう答えた。井水は香港、河水は中国を指す。中国返還を控えた香港の動揺を抑える狙いがあった▲香港では大半の市民が中国の民主化運動を支持し、弾圧された学生たちに同情していた。指名手配された学生らを香港を通じて国外に逃がす「イエローバード作戦」も進められた。その支援者らが中心になり、毎年6月4日夜に開かれてきたのが香港島中心部のビクトリア公園での追悼集会だ▲ロウソクを手に事件の犠牲者を悼む集会は香港の高度な自治を認めた「1国2制度」のリトマス紙といえ、香港政府は1997年の返還後も開催を容認してきた。コロナ禍を理由に昨年初めて開催が禁止されたが、1万人が自主的に公園に集まり、当局も黙認した▲昨年6月末の香港国家安全維持法施行で状況は悪化した。今年も開催は認められず、警察は自主的な集会さえ抑え込む構えを見せる。犠牲者の遺品や関連資料を展示する「天安門事件記念館」も休館に追い込まれた▲「河水は井水を犯さず」という政策は完全に過去のものになったといえる。むしろ、中国の大河の水が小さな香港の井戸に流れ込み、あふれ出しているような状態か▲習近平国家主席は「信頼され、愛される中国に」とイメージ戦略の強化を指示したそうだ。香港の現状を見る限り、とても実現できるとは思えないが……。

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