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届かなかったトランスジェンダーの思い 判決はなぜ覆ったのか

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高裁判決後に記者会見する原告の経産省職員=東京・霞が関の司法記者クラブで2021年5月27日午後5時13分、幾島健太郎撮影
高裁判決後に記者会見する原告の経産省職員=東京・霞が関の司法記者クラブで2021年5月27日午後5時13分、幾島健太郎撮影

 戸籍上は男性で、女性として生きる50代のトランスジェンダーの経済産業省職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた訴訟は、東京高裁が経産省の対応を「不合理ではない」と判断し、1審と180度異なる結果となった。なぜ正反対の結論が導かれたのか。判決を見比べると、少数者の権利保護と、周囲の多数者の心情との間で、裁判官が悩んだ形跡が浮かぶ。

悩み相談できず、膨らんだ違和感

 「何が楽しいんだろう」。原告は小学生の頃、プロレスごっこで遊ぶ男子児童を見ると、不思議に思った。当時、心と体の性が一致しないトランスジェンダーや、性同一性障害といった言葉は知られていなかった。「なぜ自分は女性になりたいのだろう」。誰にも相談できないまま、大人になるまで悩み続けた。

 経産省に入省後も男性として働き続けた。性別適合手術の是非が本格的に議論され始めた1996年ごろ、性同一性障害を知り、その後、女性ホルモンの投与を始めた。性同一性障害と診断されたのは99年。当事者が集まる自助グループに通うと、同じような境遇の友人と出会えた。私生活は次第に女性として過ごすようになり、「職場でも」との思いが強くなった。

 2009年、意を決して希望を職場に伝えた。前例がなく、人事担当者との話し合いは約1年にわたった。最終的に人事担当者から「同僚への説明が必要」と言われた。説明会には数十人の同僚が参加。原告は、自身が性同一性障害で、私生活を女性として過ごしていることを伝え、職場でも女性として勤務したいとの希望を打ち明けた。その後、原告が席を外し、人事担当者が同僚の女性らから意見を聞いた。原告は女性らしい服装や髪形での勤務は認められた。ただ、女性トイレの利用は、執務室から2階以上離れたトイレに限られた。

 女性として働き始めると気持ちが軽くなった。…

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