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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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ジャイアントパンダ1頭、キングペンギン2羽、アジアゾウの鼻の長さ…

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 ジャイアントパンダ1頭、キングペンギン2羽、アジアゾウの鼻の長さ。コロナ禍を機に広がった「人と人との距離」の目安として、動物園などが発信する心温まるイラストが話題になったのは昨年のことだ▲推奨される距離は2メートル、米国では6フィートに相当する約1・8メートル。ウイルス感染を防ぐためとはいえ、相手との距離に気を使う日常はやはり気詰まりだ。親しい友と抱き合うことはもちろん、額を寄せてのひそひそ話もしづらくなった▲電車の風景も様変わりした。ラッシュアワーを過ぎると、座席が一つおきに埋まっていく。空いた席に座りたいけれど、暗黙のルールを破るようで気が引ける。よくも悪くも、これがコロナ下の「新しい日常」か▲感染症への恐れが人と人とを隔てるのは今に始まったことではない。結核の床から句を詠んだ正岡子規が東京・根岸の自宅で開いた正月句会の様子を描いた絵がある。寒い時期にもかかわらず窓が開け放たれ、子規は最も縁側に近い場所に座る▲興味深いのは参加した門人たちだ。子規の左右1メートルほどを空けて車座になっている。8畳の客間に22人、かなりぎゅうぎゅうだが、感染者とは「大人2人分」の距離が確保された▲「感染症文学論序説」(河出書房新社)でこの絵を紹介した国文学者の石井正己さんは、「結核という感染症を抱えても、決して孤立して生きようとはしなかった」と、子規への共感をつづる。身体的な距離を保ちつつ、心は寄り添う。コロナ禍にも通じる知恵だろう。

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