性被害から27年、流れ続けた「血」 ようやく見えた日常への愛

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「SAWORI」の第3章は、歌人の早坂類さんの「私達は旅に出よう背景のある旅に」という言葉で始まる。生まれたばかりの長男を迎える家族の写真を中心に構成した=にのみやさをりさん提供
「SAWORI」の第3章は、歌人の早坂類さんの「私達は旅に出よう背景のある旅に」という言葉で始まる。生まれたばかりの長男を迎える家族の写真を中心に構成した=にのみやさをりさん提供

 性暴力の被害者は後悔と自責の念にさいなまれがちだ。誰にも打ち明けられず、孤独な闘いを強いられることも珍しくない。写真家、にのみやさをりさん(51)は、被害に遭ってから27年の歳月を重ねて「ようやく『日常』を愛して自分を赦(ゆる)せるようになった」と前を向く。語ってくれたのは、理不尽な苦しみから解放され、生きていくためのヒントだった。【菅野蘭/デジタル報道センター】

 ※リストカットの痕を撮影した写真作品を取り上げています。閲覧にご注意ください。

 5月下旬、湿っぽい風が海を越えて流れてくる横浜市のみなとみらい地区の公園に、にのみやさんは現れた。ノースリーブに長ズボン、それに大きなリュックと装いはスポーティー。静かに心境を語る著書やネット交流サービス(SNS)の文面は繊細だったので、ちょっと印象が違った。東京・代々木のカフェ「café nook」で5月31日~6月12日に開く個展の準備に追われていたが、よく笑いエネルギッシュだった。

モノクロの世界で、ひとり生きた

 にのみやさんが写真を撮り始めたのは、24歳でレイプ被害に遭ったのがきっかけだった。出版社に入り、子供のころから憧れていた編集者の道を歩み始めたばかり。加害者は信頼していた上司だった。

 泣き寝入りはせず、さらに上役の男性に被害を相談した。しかし「(加害者の上司から)仕事を引き継いで。引き継げないなら、君が仕事を辞めて」と、まるでひとごとだった。親との関係がこじれ、実家を飛び出すように就職したにのみやさんには、仕事を辞めても帰る場所がなかった。「こんなことに負けて職を失うわけにはいかない」。歯を食いしばって引き継ぎに臨んだが、上司は辞めるまでの数カ月間、性的関係を強いた。

 「私は強いし、どうってことない。自分が悪いからこうなったんだから」。そう言い聞かせても、心は擦り減っていく。ある日突然、目の前の景色が白黒になっていることに気づいた。信号が赤なのか青なのか分から…

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